新卒社員向けの英才教育(2)
前回の投稿では、新入社員向けに経営教育プログラムを行っている企業様を話題にしました。新人の「成長予感」を高めることで、4年間で離職者ゼロという状態をつくっている事例でした。
https://note.com/fujimotomasao/n/nad293da5b6ed
しかし、そのような英才教育を果たして新人全員が求めているのだろうかと、同社経営者様に問いかけてみました。
同経営者様の回答は、至ってシンプルでした。回答は、「採用の場面でそのことを売りにしている。それに乗っかってくる人を採用している。」でした。つまりは、採りたい人材と集まる人材がマッチしている、同社様に入る大卒人材は、皆経営について学びたい人材ばかりだというわけです。
同社様は、エッセンシャルワーカーを雇用する事業を行っている会社です。慢性的な人材不足の業界です。以前の中途採用では、「来る者拒まず」で、数の確保を優先させ人材の選別を後回しにして採用していた時期があったそうです。その結果、自社に合わない人材に溢れた組織となり、「大量入社・大量退社」の組織になってしまっていたそうです。
その後採用戦略・方針を「入社の敷居を高くする」「自社に合った人だけを採る」に変えました。無尽蔵に打っていた求人広告もやめ、自社のHPのみでの募集告知にしました。その結果、当然ながら応募数は劇的に減ったそうです。たまにHPを見て応募する人が数えるほど、しかしその数えるほどの人材は自社にマッチしている質が高い人材だけになったということです。採用戦略・方針を切り替えたのは正解で、社員数の純増の観点からも結局そっちの方が効率がよいというお話です。
その同社様が採用戦略で目指すイメージは、「現場労働者が集まって、どうやったらあの会社に入れるのか、という雑談をする状態」だそうです。業界内の労働者同士で「あの会社はコネがないと入れないのかな」「コネ以前にお前が行っても取ってもらえないよ」などの会話が出るような、自社をそんなブランドに育てることを目指しているそうです。「来る者拒まず」になる前に自社のHPだけの採用にしていた時期があったそうですが、当時それっぽい兆しがあった、しかし「大量入社・大量退社」でかき消されてしまっていたので原点回帰する、というお話です。
上記は中途採用の話ですが、新卒採用も同様のイメージです。「地元就職×経営人材を目指すならうちの会社」というブランドにこだわって、採用の入口を絞っています。よって、目標の採用数はあるものの、重点KPIなどにして数ありきにならないようにしているそうです。
同社様の課題は、2年目以降の人材の育成だそうです。入社後1年間及びしばらくは、充実した経営教育プログラム効果でよい状態が続くものの、2年、3年と経ってくるとやはりその気概も薄れていくそうです。よって、中堅者教育を新たに行って各領域のより専門的な内容をとりあげる、次に入社する新人に対する教育企画・実施側に回る、新規事業の旗揚げを募るなどの仕組みを整備し、継続的な人材育成の流れをつくろうとしているようです。あと、この流れに乗る前に入社した中堅以上人材の底上げです。これらの課題が、今後当面のテーマだというお話でした。
教育や人材育成は、費用対効果がわかりにくい投資の代表格です。それをすることで来月の売上がいくら上がる、というわけでもありません。企業によっては、それらへの投資は敬遠します。しかし、同社様の取り組みが少なくとも離職者を数人は防ぎ、残っている人材の生産性も高めていると想定すると、その費用対効果の確かさは歴然でしょう。
経営戦略は企業の数だけありえるでしょう。市場の黎明期に採れる人材を多数かき集めて集まった人で何とかやりくりしながら事業拡張するのも戦略ですし、自社に合う人材を厳選して採用し無理な事業拡張を追わないのも戦略でしょう。社内外を取り巻く環境にもよりますので、一概にどれが正しいなども言えませんし、正解をひとつに絞れるものでもありません。その上で、着実な成長戦略を描きたいのであれば、同社様の事例はひとつの有力なサンプルになると思います。
<まとめ>
入社の敷居を高くし妥協しないのも、有力な戦略になる。