![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/146316988/rectangle_large_type_2_c7e190fa3776c78c953b0defdba2448a.png?width=1200)
上司に相談しても解決しない?ハラスメント問題と第三者の役割
ハラスメントの被害にあった際、通常は上司に相談することが基本です。しかし、本来は相談先である上司から被害に遭うケースが後を絶ちません。
本記事では、なぜハラスメント対応の相談窓口を設置する必要があるのかについて考察していきます。冷静かつ的確な対応を求められる今、相談窓口の重要性を考えます。
ハラスメント対策に関心のある方はぜひご一読ください。
この番外編を書こうと思ったきっかけ
世の中の犯罪や嫌がらせの心理を、私なりに文献で調べる中で「第三者的な立場」の重要性に気づいたのがこの記事を書こうと思ったきっかけです。
ちょうどX(旧ツイッター)でインティマシー・コーディネーターについて話題になっていたことから、そちらの件も取り上げたいと思います。
インティマシー・コーディネーターとは:
映画やドラマにおいて、俳優らのセクシュアルな身体的接触やヌード、暴力シーン等が演出上必要となった際に、演出側と演者側の意向を調整して、演者の尊厳を守りつつ効果的な演出につなげる職種。
第三者的な立場:忖度なし、腹を割って話しやすい
私が保健師として働いていた頃、仕事の一部に相談業務がありました。企業の保健師は、学校のカウンセラーの先生とはまたちょっと違った役割を持っています。
たとえば、社員が会社のことや個人的な悩みについて誰かに相談したいけれど、家族や同僚には言えないといった深刻な話をすることがあります。そういう話を、私たち保健師が聞いて解決策を一緒に考えます。
相談に乗っていると、「あなたに話してよかった」と言われることがあります。これは一見すると嬉しい言葉に思えるかもしれません。でも実際のところ、このような言葉には注意が必要です。
人は相談に乗る側を操作しようとすることもあるし、あとでその人から恨まれてしまうこともあります。だから、相談を受けるには経験とスキルが必要なのです。また、自分ひとりで解決しようとせず、専門家が集まったチームで対応することがもっとも大切です。
現在、私は時々しか出勤しない職場があるのですが、出勤して「何か困ってることありますか?」と尋ねると、芋づる式に問題が出てきます。それはパソコンの使い方だったり、人間関係だったり、大小さまざまです。
なぜ私にそんなに話すのかを考えた時に、忖度のない関係だからだろうとの結論に至りました。まさに私は第三者なのです。
中には「自分の仕事も職場も知らない職種に話すなんて無意味」と思う方もいるかもしれません。ところが、仕事も職場も知らない相手だからこそ、話すことで気持ちが楽になる方もいらっしゃいます。
![](https://assets.st-note.com/img/1720226676528-5nTkf5zjzv.jpg?width=1200)
何も言わないから大丈夫、ではない。
あまり良くない環境で働いていると、それが当たり前になって訴えることすらできないことは念頭においておいてほしいと思います。
組織に所属していると「問題があったらなんでも言ってください」といわれる場面があります。ところが、そこで働く人々は「問題を話すと自分が担当させられる」とか「改善のアイディアがないから話すのはちょっと。。」と、自分の意見を表明することにためらいを感じるシーンもまた多く見受けられるのではないでしょうか?
それに対する解決策は「全員面談」です。たとえば保健師なら健康診断結果をもとに全員面談です。1回きりの面談では悩み事など出てきませんが、何回か会って信頼関係ができてくると、職場におけるちょっとした問題が表に出てきます。本人が困っていなければいいですが、困っていることを自覚してもらうのも大切なことです。
家族に話すのは心配をかけてしまうから話したくない。そんな時、医療職に守秘義務があるのは大きいですね。医療職の場合、守秘義務が法令に定められている他、秘密保時契約も取り交わしているはずなので、情報が外にもれないよう細心の注意を払っているはずです。
そういえば、昔お世話になった産業医の先生も「他の部署の知り合いや元上司とのナナメの関係を大切にしましょう」と話していた気がします。
インティマシー・コーディネーターを入れなかった経緯について考える
次に、インティマシー・コーディネーターを入れなかった経緯について考えていきたいと思います。
7月4日に「ENCOUNT」にて公開された三木康一郎監督のインタビューでは、主演俳優からインティマシーコーディネーターを入れる要望があったが「間に人をいれたくなかった」とインティマシーコーディネーターを起用せずに撮影したことが明らかとなり、ネット上で物議を醸していました。
なぜインティマシー・コーディネーターを入れなかったのか、疑問を持たれている時点で対策が甘かったとされても仕方がないでしょう。その後、制作側や監督から謝罪が行われているようですが全文は把握できていません。
もしかすると予算や時間がなかったとか、スポンサー的な他の事情が絡みあっていたかもしれません。監督がよほどのワンマンならわかりませんが、果たして監督の一存で決められるのか?と思いました。
謝罪したら終わりとはならない
ただ、この件に限らずですが、謝罪をしたから許される、いつかみんな忘れるだろう、と思っていないでしょうか?
作品や商品が公開される以上、そちらの宣伝をすることが優先されます。
被害者はいなかったとしても、もし被害者がいたら、当本人は一生そのキズを抱えながら仕事に臨むことを忘れてはなりません。周りで間接的に苦痛を感じている場合もあるでしょう。
スタッフが働く環境がブラックでは、作品が世の中に出ても、見ている側はクリアな気持ちで見られないです。
![](https://assets.st-note.com/img/1720228280390-hsyY2lGMSi.jpg?width=1200)
俳優に同情する。
また、同性の俳優が本音を聞いてあげる、といった対応方法についても記事になっていました。この対応について「なるほど」と思うかもしれませんが、俳優さんはカウンセリングや調整の専門家ではありませんので、にわかカウンセリングに応じるのは避けた方が無難でしょう。カウンセリングは、聞き上手というだけでは決して務まらない仕事です。
なぜならば、同僚や友達として話を聞いた場合、守秘義務がありません。そもそもカウンセリングには技術がいりますし、聞いた後の事後措置がもっとも重要です。話してはいけない場所(打ち上げ等)でうっかり話してしまい、信頼関係が壊れるとかの色々な問題が出てくる可能性もあります。
インティマシー・コーディネーターを含むすべての相談窓口に、宝塚歌劇団や旧ジャニーズ事務所(SMILE-UP.)、歌舞伎界などで起きた問題と同じ轍を踏まない対策が期待されています。
監督はすでに謝罪しているとおり、自ら教育を受けて考え方を改めることが求められます。制作陣全員が、性被害の知識や倫理観を学び直すことです。業界全体で、今回の事例をもとに「自分は恩恵を受けられなかったけど、未来の俳優は守らなくては」と、考えを改めるチャンスでしょう。
今ちょうど働きざかりの世代は、氷河期世代。自分のことを思い返してみても、学生時代はもちろんハラスメント防止教育を受けていません。自分も20年前当時の教授がゼミの最中に怒鳴り散らしていたことを思い出しました。。スタッフが教育や研修を受けるには資金がいるので、教育はなおざりにされがちです。
芸能界のことは全くわかりませんが、俳優さんは性別を問わずストレスの大きな仕事であることぐらいは分かります。芸能事務所があったり、マネージャーさんがついていたりするとはいえ、セクハラ・パワハラが横行する世界も未だ残っているのではないでしょうか。
先ほど、監督の考え方を改めてもらいたいと書きましたが、疑われないための対策も重要です。相談窓口の設置は、転ばぬ先の杖のようなものです。転ばぬ先の杖は予防を語る時によく使う慣用句ですね。いったん転ぶと、元通りになるまで倍以上のエネルギーがいります。
おわりに
最後に私の話になりますが、過去に受けた嫌がらせの内容はなかなか忘れられませんね。相談業務や環境調整等、数多の経験を経て「未来のある人たちは同じ苦労をしないでほしい」との思いから今回の記事を書きました。
いま私は産業保健領域で身につけたノウハウを活かし、ハラスメント相談窓口を担当しています。性別に関わらず、嫌がらせのない、安心して働ける世界が広がることを強く願います。
\他にはこんな記事を書いています/