食べるという異物を入れる行為~かすみ嬢の居場所(16)
善意でもなんでもなく、習慣のひとつとして毎年行っていた原爆の黙祷は、広島はできたのに長崎が今年はきちんとできなかった。
私のいたらぬがゆえに、腹筋をしながらの黙祷に。こんな大切な時間にも筋トレを優先するその強迫観念に自分の醜さに涙が出て、その感情に長崎の関係ないことにまた涙。
そして、帰省。これにはほとほと疲れ果ててしまった。
「それしか食べないの?」「もうちょっと食べなさい」「さっきから箸が動いてないじゃない」等々。
「昔は可愛かったのに。こんなんになっちゃって」「前みたいに戻って」等々。
全否定された気分。
自分のことがかわいいって気持ちが大き過ぎるのかも知れないけれど、最近、異物を体内に入れるのが本当にだめ。気持ち悪い。その異物で私の身体は成り立っていくのか…って思うと発狂しそうになる。
だってもう、本音を言うと意味わからないの。なんでお金を払ってまで「食べる」という名のそんな行動ををとらなきゃいけないの。
みんなの楽しんでいるその姿を見るのがイヤなだけかもしれない。苦しい。
私は今の私になって、ようやく少しは自分を認めてあげられるようになったのに。もっと痩せようって思えることで活力を得られるようになったのに。
ごめんなさいきちんと食べられなくて。ごめんなさい思い描いた女の子になれなくて。ごめんなさい親戚の方々のご好意を素直に受け入れられなくて。
私は食べたくないの。それだけは譲れないの。
たぶん、私がしっかり痩せてないからだろうな。誰もが声をかけるのをためらうような特別な存在になれていたら、あんな風には言われなかった。「普通」に戻れない究極になっていたら、あんな風には言われなかった。
しっかり、しっかり痩せなきゃね。
小さいときから特別なものに憧れてた。
美しく儚いからこそ皆に守られる姫に、病弱ゆえに慈しまれる少女に、今にも消えそうな神秘的な夕陽に。
それら全てを掛け合わせた象徴的なものが今の私にとっての痩せ姫で。昔も今も変わったわけじゃないのよ。
私は痩せられるって希望と、痩せ姫を目指そうって目標に、日々寄っかかって生きてる。
私が私らしく。私が絶望することなくきちんと生き抜くためにできること。この膝がもう少しぼっこりと出ますよう、この骨がもっとくっきり出ますよう。
そんな明日への期待が私を生かしているようなものなの。