【アニオタが名著を読む】チーズはどこへ消えた?
読んだことはないけど、タイトルは聞いたことあるランキング。
第一位は……
『電気羊はアンドロイドの夢をみるか?』
これと同じくらいタイトル知名度が圧倒しているのが、『チーズはどこへ消えた?』ではないでしょうか。
日本で発売されてからおよそ20年。ロングヒットで今でも売れているビジネス書。でも、その内容をタイトルから察することってできませんよね。
ビジネス書っていうけど、「実際どんな内容なの?」「どうして長年売れ続けているのか」などなど疑問は絶えないですが、つい先週に書店で大々的に展開しているのを見て購入する決心をしました。
あらかじめ申し上げますと、この書籍は好き嫌いが大きく分かれるのではないでしょうか。まず、明確な知識やスキルを求めている人には向かないでしょう。非常に抽象化された記号的な「物語」が展開されているからです。洋画はお好きですか?もし苦手なら、読み進めるのは苦痛かもしれません。洋画特有のキザな台詞回しや、妙に意識の高い人達。鼻につくジョーク。この本は、三つの章に分かれています。本編は第二章で、ここに「チーズはどこへ消えた?」という寓話が載せられてあります。第一章は高校の同窓会に集まった人々が現状について話し合う場面。ここで一人の人物が「チーズはどこへ消えた?」をクラスメートに紹介するという体で、第二章へ突入。そして第三章で、寓話を聞いて意識が変わった!素晴らしい物語だ!という感想を言い合う称賛ムーヴメント。「このパワーストーンを買ってから彼女ができました」なみに胡散臭いんですよね。
これらの理由で好き嫌いの分かれるものだと思います。
洗練された寓話として
ここからは本編のお話をしましょう。一言でいうと、教訓的な昔話です。登場するのは2匹のネズミと2人の小人。彼らはチーズ(=その人が求める幸せや豊かさの象徴)を求めている。ネズミは頭は好くなくて単純な行動をする思考の擬人化。小人は複雑な思考を有する人間の戯画。
つまりこの作品は人間の複雑さと単純さの両側面を、極限まで抽象化してアイロニーを交えるものがたりです。人間の愚かさをテーマにした笑話とも言えるでしょう。実は本編はたったの50ページなんです。とっても短くて余分な要素がない。だからこそこの寓話がもつエッセンスの輪郭がはっきりしています。
恐怖で足がすくんだ時に
ズバリ、本書の教訓とは「変化を恐れてはいけない」ということです。とにかくこれが繰り返し強調されています。
な~んだ、そんなことか。と思われるかもしれませんが、本当にそのことを理解できていますか。「変化は素晴らしい」と思っていながら、それを心で理解していますか?
某JOJOで使われた台詞ですが、やけに便利ですよね。私もつい「言葉でなく心で理解する」って使いたくなっちゃいます。
私もこれを読む前までは、そんな単純なこと知っているに決まっているじゃないか、と思いました。けれどそのような人こそ読むべきでしょう。本書の素晴らしいところは人間の〈愚かさ〉を、すこし距離を離れたところから見つめれることです。
登場する小人は非常に馬鹿らしいことに悩んで大きな損失を抱えます。変化に対応できずに責任転嫁をする。得たものに執着しすぎて、そこから離れられなくなる。自分の過ちを認めずに、がんじがらめになってしまう様子。
私は彼らを安全地帯から笑っていました。なんで彼らはこんなにどんくさいんだろう。なんで彼らは客観的で冷静に失敗を振り返ることができないのだろう。そうやって馬鹿にしていて、読み終わった時ふと気づきます。物語に映し出された愚かな小人だと思っていたそれは、鏡に映る私自身だったことに。
人間って意外と自分のことこそ分からないものですよね。自己という主観を客観で見つめることは難しい。だからこそ本書を手にとる必要があるのかもしれません。
自分を見つめることってそんな簡単ではないですよね。まさに哲学です(笑)。私はこの本を読んで良かったと思っています。この本に出会ったことで、私がどれだけ今の立ち位置に無意味に固執しているか分かりました。
最後に私がすぐに役立つと思った一節を引用します。
もし恐怖がなかったら何をするだろう——
恐怖に足がすくんで、動かないでいることがたくさんありました。何かを失う可能性を恐れて、そこから一歩も動かない。けれど現状維持た単なる後退であると、当時の私は気づいていませんでした。確かに恐怖がない時って、自由で勇気ある選択を楽しんで進む事ができていた気がします。
私は怖がりなので、きっとこれからも恐怖に歩みを止めてしまうことがあるかも知れません。そんな時はこの一節を思い出そうと思います。その先にチーズ(幸せ)があることを信じて……。実際、登場人物の小人は最終的に大きなチーズを手に入れました。
チャンスを掴む握力と、失敗から学ぶ冷静さ
思い出した言葉があります。アニメSHIROBAKOです。失敗することや迷惑をかけることを恐れて、目の前にあるチャンスに手を伸ばそうとしない主人公の親友に、ベテランの大先輩がかけた言葉。
思えば高校生のとき、どれだけ目の前のチャンスを逃してきただろう。斜に構えて、世の中なんてくだらなくて……そう思って何も行動しなかった自分。振り返ると、高校生でしかできない経験のいくつもを取り逃していたようです。チャンスを掴む握力。このことを忘れないで、新しいことに挑戦しようと思います。
#備忘録メモ
読書中に思ったあれこれをつれづれ書き置いておきます。
①コロナ禍の日本にピッタリと当てはまっていて怖い
2年の猶予があったのに、感染対策も変えずに今までのやり方に固執する日本の政治がまさに本書の登場人物とぴったりだ。
②人間はロングスパンで考えられる素晴らしい能力がある。が、それ故に短期的な変化に対応することもできなくなる。
③遠くを覗いていたら、灯台の真下で起こる変化に気づけなくなってしまう。
④案ずるより産むが易し。複雑な思考回路を持つ人間だからこそ、立ち止まっていれば恐怖は際限なく膨らんでしまう。