集中すればするほど脳はつかれない
16年前のベストセラー『脳は疲れない』を出版当時に読み、書いてあることは理解できたが、体感的にはやっぱり納得できずにいた。
沢山勉強すればつかれる。
夕方になれば頭もぼーっとしてくる。
つまり脳はつかれるでしょ……。と思っていた。
しかし最近になって突然、たしかに「脳はつかれない」かもしれない、と納得しかけている。誤解を恐れずにいうならば、今の自分はこう思っている。
集中すればするほど、脳はつかれない。
今回は、自分がなぜこのように感じるに至ったかについて書いてみたい。
そもそもの発端はマインドフルネスの実践に始まる。
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「マインドフルネス」という言葉を知っている人は多いと思う。仏教に由来し、そこから抽出されビジネスの場に応用されるようになり、一気に広まった概念である。
自分もマインドフルネスについては色々本を読んだつもりだが、いまいちピンとこなくてずっとモヤモヤしていた。それってどういう状態?知識としての理解に留まらず、実践し、効果を実感したかった。
そこでまずは「マインドフルネス」を自分なりに理解するために、感覚をたよりに概念を整理してみた。
マインドフルネスと似た言葉で「フロー」や「ゾーン」といった概念がある。厳密な定義は各自お調べいただくとして、ざっくりいうと「めちゃくちゃ集中した状態」のことだ。これらを整理するとこうなる。
マインドフルネス
↓集中が深まる
フロー
↓集中がさらに深まる
ゾーン
そもそもの出自が異なる言葉なので本来このように一律に並べられるものではないが、一般的な正しさよりも私自身の納得感を重視した整理なのでご勘弁いただきたい。
フローとゾーンは、睡眠に例えるとわかりやすい。
今から寝ますねスヤァと眠れるのび太くんはすごい。普通、寝ようと思ってから眠れるまでにはタイムラグがある。
フロー状態も、入ろうと思ってすぐに入れるものではない。ゾーンはもっと難しい。環境をしっかり整えることも必要になってくる。
競技前の選手が、観客に拍手を求めるパフォーマンスをたまにみかけるが、あれはフロー状態にある選手が、さらに集中度を高めてゾーンに入るために会場のムードをつくろうとしているわけである。
マインドフルネスはフローの前段階と位置づけることができるわけだが、これは睡眠に例えるなら「寝ようとしている状態」ということになる。
寝ようと思って⇒寝るためのアクション(ベッドに横になる、等)を起こすと⇒それを検知してスイッチが入り⇛心身が睡眠状態へと向かう
集中が深まっていく過程もこれに似ている。
集中しよう、と思うと⇒それを検知してスイッチが入り⇛心身は集中状態へと向かう。
集中は少しずつ深まっていき、いつしか時間感覚が薄れ、フローに入る。さらに極限まで集中力が高まるとゾーンに至る。
つまり(これがとても重要なことなのだが)マインドフルネスはフローと違い、いつでもすぐに自分の意思でスイッチを入れることができる。
いつ、いかなる状況においても、「目の前のことに集中しよう」と思った瞬間にマインドフルネス状態になれるのだ。
マインドフルネスはマインドフルネス瞑想とセットで語られることが多いので、静かな場所で座禅を組んで雑念を排除し呼吸を整え───つまりなんだかすごく特別なプロセスを経なければ至れない特別な精神状態だと思われているが(自分もそう思っていたが)、なんのことはない、今やっていることに意識を向けさえすれば、それはもうマインドフルネスな状態なのだ。
マインドフルネスになるためには、技術も整った環境も必要ない。必要なのは「"今ここ"に意識を向けよう」という意思だけである。
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さて、冒頭で
集中すればするほど、脳はつかれない
という自説を掲げたが、ここでいう「集中すればするほど」とは、マインドフルネスから集中が深まっていき、フローを経てゾーンへと至る流れのことだ。
マインドフルネス
↓
フロー
↓
ゾーン
マインドフルネスからゾーンへ至る流れはグラデーションだ。実際にはどこからがフロー、どこからがゾーン、という区切りはない。
ここ最近、マインドフルネスのスイッチを24時間入れっぱなしですごすチャレンジをしているのだが(具体的なやり方は別の機会に書きたい)、この生活でまず実感したのは
フロー状態でいられる時間が増えた
疲れにくくなった
ということだ。
前述のとおり、マインドフルネスに特別な技術は必要ない。目の前のことをいつもよりゆっくりちゃんとやろうとすればいいだけである(いくつかポイントはあるが長くなるので別の機会に書きたい)。
とはいえ全てのことをいつもより集中してやるわけだから、当然ヘトヘトになるだろうと思っていた。
でも筋トレと同じで、最初はしんどくても少しずつ精神力みたいなものが鍛えられ、どんどん集中「力」が高まっていくのだ、と想像していた。
しかし実際にやってみると、感覚としてはむしろ真逆で、マインドフルネスであろうとすればするほど、むしろ「力み」が取り除かれるという感覚があった。力を使わなくなるからつかれない、という感じなのだ。
それで冒頭の『脳は疲れない』を思い出したわけである。
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この現象を科学的に説明しうる概念にはもうひとつ、心当たりがあった。それがDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)である。
この概念に私が最初に出会ったのは『ブレイン・バイブル』という本の中であった。
詳しい定義は本書を読むかやはりググっていただきたいのだが、DMNとは「ぼーっとしているときの脳の状態」のことだ。
DMN状態の脳はエネルギーを激しく消費する。逆にマインドフルネスな状態のときはエネルギー消費が抑えられる。
つまり「脳は集中しているときより、ぼーっとしているときの方がつかれる」というのだ。これもなんだか、直感に反していないだろうか。
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正直なところ、この話もしばらく受け入れられずにいた。ぼーっとしているときの方がつかれるだと?そんなわけある??
だけどマインドフルネスを実践したことによる体験は、あきらかに「脳は集中しているときより、ぼーっとしているときの方がつかれる」という説明の方に合致していた。
そこで改めて、「ぼーっとしているとき」と「集中しているとき」それぞれのときに自分の中で起きていることを内省してみた。
たとえば
作業の手がとまっているときや
やることがあるのに手がつかずスマホをいじってるときは
目の前の作業から意識が離れ、思考がさまよっている。
(こんなことをしている場合じゃない)という焦り。
(間に合うんだろうか)という不安。
心拍数が上がり、身体がストレスを感じている。たしかにこの状態は、エネルギーをかなり消耗している感じがする。
逆に、目の前の作業に向き合い、手を動かしているときは、少なくとも思考のさまよいからは開放されている。その分、不安や焦りを感じることも少ない。
どちらがエネルギー消費効率がいいかは明白である。
たとえば
休日だが、明日は大きなイベントを控えている日。
うまくやれるだろうか。
人は集まるだろうか。
様々な不安がうずまき、他の仕事は手につかず、かといってこれ以上できることもなく、ゴロゴロしていても何をしていても頭のどこかで明日のことを考えてしまう。不安で身体は緊張し、休日にも関わらず心身がかなり消耗する。
むしろイベント当日の方が、開き直り、やるべきことに集中できるので身体はつかれるけれども心は消耗しない。
むしろ色々想像してしまう前日の方が心の消耗は激しい。
たしかに脳は、何かをしているときよりも、していないときの「アイドリング状態」のときに多くのエネルギーを使っているのかもしれない。
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しかし、ならばどうして、世の中では逆の印象(集中するとつかれる。ぼーっとすると休まる)がまかり通っているのだろうか。
ひとつ、マンガやアニメの影響はあるかもしれないと思った。「極限まで集中力を高めて戦ったあと疲労困憊する主人公」という描写から、あーやっぱり高い集中力を発揮したあとはつかれるんだなぁ、という印象が刷り込まれたのではないか。
あるいは肉体的な疲労を「集中しすぎたから(脳が)疲れた」というふうに勘違いしている可能性もある気がする。
長時間同じ姿勢で作業を続けると肩や腰や腕、眼の筋肉などが疲労する。座り仕事は恐ろしいほどに健康に悪いといわれているが、座った姿勢を続けるのは想像以上に身体に負担がかかる。
そもそも、集中すればするほどつかれるというのであれば、世の天才たちの偉業の説明がつかない。
多くの天才たちが、何時間も何日も何ヶ月も驚異的な集中力で作業に没頭することによって、あらゆる発明が、イノベーションが、芸術作品が生み出されてきた。
彼らは無尽蔵のエネルギーの持ち主だったから驚異的な集中力を発揮し続けられたのだろうか。そうではない。かれらは人より集中していたからこそエネルギー消費が少なく済み、結果として人より作業を続けられていたのではないだろうか。
人間は、集中すればするほどつかれない。少なくとも自分にとってこの仮説は今のところとても有益にはたらいている。
しかも必要なのは「目の前のことをいつもよりゆっくり丁寧にやろう」という意思だけなのだ。
CM
ひとつひとつの行動をマインドフルネスに過ごせているかどうかを、24時間分、全て記録して評価している。
これにはTaskChute Cloud(タスクシュートクラウド)というアプリを使っている。
1分で終わる作業に点数をつけるのは最初はとてもめんどくさかったが、自分の行動をリアルタイムにモニタリングし、評価することでむしろ集中力が高まることに気づいてからはちゃんとやるようになった。
このあたりの詳しい実践方法もnoteにいずれ書いてみたい。
※参考文献
一般的には、マインドフルネスは
1 .判断をしない
2.「今この瞬間」に意識を向ける
というふたつの要件を満たす状態とされている。本noteでは2のみを強調してマインドフルネスといっている。
ただ自分でいろいろ試行錯誤してみて、2をがんばっていれば自然と1もできるようになる気がしている。
マインドフルネスについて詳しく知りたい方はこちらの記事がわかりやすい。
マインドフルネスは特別な精神状態ではなく、むしろ人生との向き合い方そのものであると考えるようになったのはこの本に拠るところが大きい。
フローについてはこのTEDが有名。