好きなことわざを娘と語る日。
#20250102-504
2025年1月2日(木)
むーくん(夫)の勤務は暦通りでない。
今年は元旦から出勤だ。
年末年始休みというものがないので、年末から年始にかけての雰囲気が味わいにくい。それだけでなく、父が昨年亡くなったため、我が家は喪中である。
お正月飾りを控えたり、年賀状が届かなかったり、いつもに増して新年らしさがない年明けとなった。
ノコ(娘小5)と2人の昼食もそれぞれが食べたいものを食べ、まるで平日の献立だ。
「ママママ、ママママ。ママの好きなことわざって、なに? 3つ、いって」
いきなりの質問に戸惑ってしまう。
「ことわざでなくて、好きな言葉とかでもいい?」
ノコが首を傾げてから、うなずく。
ことわざ以外まで範囲を広げたが、日頃から意識している好きな言葉があるわけではない。
「ちなみに、ノコさんの好きなことわざってなに?」
問いに問いで返し、そのあいだに考える。
「私はね、『百聞は一見にしかず』!」
「それはどうして?」
11月に小学校で社会科見学があった。5年生全員で貸切バスに乗り、製菓工場と染色工房を巡った。
製菓工場で身近なお菓子が製造されるさまを見ているとき、担任の先生がいったという。
「なあ、たくさん説明されるより、こうやって1回でも見るとわかるだろう。『百聞は一見にしかず』とは、まさにこのことだね」
その言葉が腑に落ち、納得できたという。
「本当、そうだなぁって思ったから」
なるほど。そのことわざは私もむーくんもたびたび口にしていたが、どうも先生がいうと重みが違うようだ。
「それで、ママは?」
「『急がば回れ』かな。急いでいるときに慌てちゃうとケガしたりするから、急いでるときこそ落ち着いてゆっくりやろうと思う。ママ、小さい頃、それでよくケガしてたから」
『急いては事を仕損じる』でもいい。
とにかく私の場合、慌ててよい結果になったことがない。
だからこそ、慎重にゆっくりふるまうのだが、母にはそれがもたもたグズグズしているように見えたのだろう。母によく「少しは急ぎなさい」と呆れられたものだ。
ノコに2つめを尋ねると、にやりと笑った。
「『|塵《ちり》も積もれば山になる』。1円だってさ、12ヶ月ためたら、12円になってさ、駄菓子くらい買えるかもしれないじゃん」
物価上昇中の昨今、今や駄菓子でも12円では厳しいかもしれないが、それに気付いたのは成長だ。いくら説明しても1円や10円は「ないと同じ」だと、ノコはついこの間までいっていた。
「へえ! 1円の大切さがわかったんだね」
鼻の穴をふくらませ、ノコは胸をそらした。
「で、ママの2つめは?」
「うーん、『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』だな。人前とかで質問するのは恥ずかしいけどさ、あとであのとき尋いておけばよかったと後悔するよりずっといいからね」
ふむふむとノコがうなずく。
「そのときは、ちょっと目立ったりしてイヤだけどね」
「だよね」
ノコがもっともらしい顔をした。
「私の3つめはね、『猿も木から落ちる』なんだ。得意なことでもさ、気を抜くと失敗しちゃうじゃん。私、なわとびが得意なんだけどね」
そうなのか!
このあいだまで、「大縄飛びなんてこの世からなくなればいい!」と叫んでいた記憶があるが、それは団体競技の縄跳びであって、個人での縄跳びは得意なのだろうか。
「得意だと思ってると、跳べないのがあるからさ」
跳べない跳び方の種類があるようだ。
なんだかことわざの意味とずれている気がするが、ノコなりにうぬぼれずに気を引き締めようと思っているようだから、よしとしよう。
「それで、ママの3つめはなに?」
困った。いきなり3つといわれても、そんなスラスラと出てこない。
しばし、考えを巡らせてから口にする。
「『神は細部に宿る』かな」
「なにそれ!」
すかさず、ノコが問う。
「こまかいところまで手を抜かず丁寧にやること。人が見ないようなところまでしっかりやってこそ、よい仕上がりになるっていうこと」
私は社会人になってから通った美術大学の頃のことを思い出していた。
作品の下地や細部といったあまり目につかないところをしっかり描いた作品は、教師の評価が高かった。他者に認められるからだけではない。自分自身、やはり違うのだ。どこの段階も丁寧に取り組んだ作品には自信がつくのか、達成感が大きい。
ノコはわかったような、わからないような表情を浮かべた。
お喋りばかりに口が動き、すっかり食事の手が止まっている。
「ほら、食べて食べて」
話していても、私はとうに食べ終えている。
食事時にこんな話題を取り上げるようになったのかと思うと、笑えてくる。クイズ形式で「ママの好きな〇〇をいって」というのは相変わらずだが、動物や色だったのが、ことわざなんていうものが出てくるようになった。
夜、帰宅したむーくんにこの話をし、好きなことわざを尋ねた。
「『失敗は成功のもと』かな」
むーくんらしさにこれまた笑える。
なかなか個性が出るもんだ。