スマホを持たせれば解決する問題ではない。~娘が感じるクラスメイトとの距離~
#20240615-415
2024年6月15日(土)
宿題をはじめると、というか。
私が夕飯を作る時間帯になると、というか。
常々この時間帯はノコ(娘小5)の相手はできないと伝えてあるのに、私がノコを優先せざるを得ない話をノコは切り出す。
「ママママ、あのね、今は、ダメ、だよね……」
こんなふうに切り出されては「ダメ」といいにくい。
「この人参を刻み終えたら、ちょっといいよ」
手早くみじん切りにし、フライパンに入れる。ここまですれば、ガス台の火の見える範囲にいるので、ノコの顔を見て話を聞くことはできる。
「はい、いいよ。どうした?」
「なんかさぁ、わからないことが多くてさ、イヤ」
宿題だと思い、ノコの手元を覗き込もうとすると、ノコがノートを覆い隠した。
「宿題じゃなくって!」
宿題じゃないのか。
「何がわからないの?」
ノコが唇を尖らせて、上半身を大きく揺らす。
「学校でさ、〇〇がね、『このことって……あぁ、ノコは知らないんだっけ』とかいう」
先日、ノコのクラスでスマートフォンがらみのトラブルがあったらしい。
ノコ経由なので詳細は不明だが、クラスにSNSを使ったグループがあるようだった。そこでの話題をしようとして、ノコはグループに参加していないから「知らないんだっけ」と言葉を続けるのをやめたのだろうか。
いい掛けてやめた〇〇君は悪意があったわけでなく、話しかけてからノコがグループに参加していないことに気付いただけかもしれないが、ノコとしては気分が悪い。
「いい掛けたのに、途中でやめられちゃうとモヤモヤするよね」
ノコが眉根を寄せ、悲しそうにうつむく。
「なんか、そういうことが多くって。私、なんかね、いろいろわかんないの」
遠まわしの会話にノコは居心地の悪さを感じているのだろう。自分のまわりだけ話が通じていて、自分にはわからない。
ノコにスマホを持たせれば解決する問題ではない。対面でのコミュニケーションもまだままならないノコだ。デジタルネイティブ世代ゆえ、使いながら慣れて学ぶ必要性はあるだろうが、親が見えない場でのトラブルは対処し難い。
短絡的になってはいけない。私は再度自分にいい聞かせる。
――スマホを持たせれば解決する問題ではないのだ。
フローリングに正座して両腕を広げると、ノコが膝に座ってきた。
「そっか。それはしんどいね」
ノコを抱き締め、その背をなでる。
「学校、行きたくない。勉強ならさ、学校行かなくてもできるじゃん」
そこに気付いたか。私はちょっと驚く。
「学校に行かなくてどうやって勉強するの?」
ノコが頬を私の胸にぴったりと寄せる。
「お家でパパとママが教えればいいじゃん。学校、行きたくない」
親子の性格によるだろうが、我が家の場合、親が子に勉強を教えることは難しい。時間や能力的な問題だけでなく、甘えなのだろうが「ヤダヤダ」が強く出てしまい、進むものが進まない。
また学校は勉強だけの場ではない。同世代ならではのコミュニケーションを体験する場でもある。
「人間関係って、難しいよねぇ。大人になっても、人間関係の悩みが一番多いしね」
ノコの背をなで続けながら、私は考える。
「ママに話せば、落ち着く? それなら、ママはノコさんのモヤモヤをいくらでも聞くよ」
ノコの呼吸が深くなった。寝ているのかと思ったが、目はどこを見るでもなく開いている。
「ママと一緒にどうしたらいいか、考える? ママは伊達にあなたより長く生きてないからね、どんな方法があるかアレコレ考えることはできるよ」
いきなりノコは顔を上げると、私の頬にブッチュとキスをした。よだれ、たっぷりだ。
「ママに話せば、大丈夫?」
ノコはずりずりとお尻を振って、私の膝から下りるとテーブルについた。シャーペンを手に取り、漢字の書き取りを再開する。
「祇園精舎の鐘の声~、諸行無常の響きあり~」
音読の宿題も同時にはじめてしまう。
手と口が別のことをしても身につくのだろうか。そこは疑問だが、ノコの顔は明るい。
人間関係は、大人になっても続いていく。
探り探り、探り探り、私はノコと歩いていく。