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「あなたのため」っていいたくないけれど、本当に「あなたのため」なんだからねッ!
#20240713-434
2024年7月13日(土)
「ママママ、ママママ、帰りに中古書店行きたい」
朝ごはんをのんびり口に運びながらノコ(娘小5)がいった。
今年はいただいたお年玉が今までなく高額だったため、半分は半年後の7月1日まで親が預かることにした。高額といっても親戚の多い小学5年生に比べたら小額だと思うが、なんせノコはお金を持たせるとあるだけ即使い切ってしまう。「宵越しの銭は持たぬ」とばかりだ。
渡さないわけではない。
どのみち受け取ったら最後、1ヶ月もたないと思うが、11ヶ月待つのはつらいだろう、という親心というか。それを通り越しての老婆心だ。
7月1日。
お年玉の残額をノコは晴れて受け取った。
それを今日、習い事の帰りに中古書店で使おうというのだろう。
目当ての品は、目下はまり中の漫画「名探偵コナン」。現在105巻となる。集めるとなると、なかなかの難関だ。
「習い事に出るまでに宿題を全部終わらせたらね」
昨日ある程度済ませたので、そう量はない。テキパキと動けば、十分可能だ。
私はスマートフォンを開き、天気予報を見る。
「一応帰る頃はまだ降らないようだけど、この蒸し暑さでしょ。いつザッと雨が降ってもおかしくないなぁ」
ここ連日空模様が不安定だ。まばゆい青空が広がり、暑い暑いといっていると、冷たい風がビュウと吹いて急変する。
「いい? ブックオフに寄るのは。1つ、習い事に行くまでに宿題を全部終わらせること。2つ、自転車で行くこと。3つ、帰りに雨が降らなかったら、です。もし帰りに雨が降ったら寄らないで、すぐ帰るからね」
「わかったぁ」
ノコはのんきな返事をし、やはり急ぐこともなくチョコクリームをたっぷり塗った食パンをかじった。
切迫感がまるでない……
ノコと違い、そうと決まれば私は慌ただしい。
寄り道をするとなると、家を出るまでに夕飯の支度も前倒しでせねばならない。洗濯物を干して、ノコの昼食を作って食べさせ、夕飯の支度をする。そのあいまに自分のためのスロージョギングも済ませたい。急ぎ、それらの順番を決める。
とりあえず、ノコを習い事先に預ければ、待機時間はのんびりできる。今は座る間もなくともあとで座れる。
私がバタバタと、バタバタと忙しなくやっているあいだ、ノコはゆっくりと朝食を食べ、踊ったり、歌ったりしていた。間に合うのか声を掛けたくなるが、あれだけはっきりと中古書店に寄るための条件を伝えたのだ。
ノコも「わかった」といった。
本気で寄りたいのなら、ノコだってやる。
結局、出発時刻になっても宿題は終わらなかった。
「帰ったらすぐやるから!」
ノコが怒鳴る。
「ママはきちんといったし、あなたもわかったといった。すぐやれば、終わる量だよ。今日は寄りません」
「じゃあ、暑いし、自転車じゃなくてバスで行く」
「バスならもっと早く家を出なくちゃいけない。もう間に合わないよ」
「あああああああああああああああ!!!」
ノコは絶叫すると、消しゴムを投げ、シャーペンを床に落とし、ノートを折り曲げた。
「ヤダから。行かないなら、バスで行くし!」
「だから、もう間に合いません」
「なんでよッ、なんでよッ、なんでよッ!!!」
それはこちらの台詞だ。
今日から三連休で、明日あさっては天気が悪いという。予定もないし、家にこもって漫画三昧ができればノコも楽しいだろう。そう思って、出発時刻までに私はすべてを済ませた。
「あなたのために、という言葉はいいたくないけどね」
怒り狂うノコに私は静かな声でいう。
「今日は、あなたのため以外なにものでもないから、いうけどね。ママもノコさんがこの三連休、漫画を読んで楽しめたらいいと思ったから、大急ぎであなたのためにお家のことを頑張ったの。夕飯まで作ったの。だれのためでもない、あなたのためよ。それなのに、自分がのんびりしてできなかったことをママにぶつけないでちょうだい」
ノコがしまったという顔をした。
やり過ぎたという顔をした。
本気の癇癪なら、こんなにスッとおさまらない。パフォーマンスなのだ。
「帰ったら、すぐに宿題やるの?」
「はい」
ノコが神妙にうなずいた。
「たとえ買えたとしても宿題が終わるまで読まないでください。『ちょっとだけ』もなしです」
「はい」
ノコがさらに神妙に重々しくうなずいた。
「それから、雨が降ったら絶対寄らないからね。自転車だからすぐ帰るよ」
「はい」
私は息をふうと吐く。
ノコはすぐさま中古書店に寄れると理解し――こういうときは呆れるほど察しがいい――破顔した。ニコッというよりニヤッという笑みだ。
まったくもう! 現金なんだから!
私もまあまあノコに甘い。
甘いというか、自分の頑張りを無駄にしたくないのだ。悔しいじゃん。
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