「ママの娘だもん!」
#20240114-342
2024年1月14日(日)
世に「子ども向け」と呼ばれるものが苦手なわけではない。
これはそう、趣向の違いなのだ。
ノコ(娘小4)はまだ私たち夫婦が好むものに興味を示す。
「何それ。私も見たい/やりたい/食べたい」
そういって、手を伸ばしてくる。
だが、私は滅多にノコが好きなものに魅かれない。
楽しみを共有できるのは、むーくん(夫)のほうだろう。だから、ノコは「パパ嫌い」といいつつもまったく寄りつかないのではなく、なんやかんやからでいる。
――もうちょっと許容範囲が広いと思ってたんだけどなぁ。
冬空を仰ぎ、私は心のうちでつぶやく。
ノコはまだ小学4年生ゆえ、大人が同伴せねばならないことが多い。
今から向かう映画館だってそうだ。
ショッピングモールの上階に当たり前のようにシネマコンプレックスが入るようになったのは、いつの頃だっただろう。今から20年ほど前、2000年代に入ってからか。
私が子どもの頃でも、新しくて清潔感のある映画館はあったが、なかには歴史があるといえばいいのか、ちょっとトイレに1人で入るのがためらわれる映画館もあった。完全入れ替え制でなかったため、ずっと入り浸っている人もいた。立ち見の人もいた。
人気映画を座って観るためには、前の上映が終わる直前に入って観終えた人が席を立つのを待ったものだ。ラストシーンを知りたくないため、耳を塞いで、目を伏せて、上映が終わるのを待った。
あぁ、映画館の懐かし話をしたいわけではない。
残念ながら痴漢もいたため、今の明るく健全そうなシネコンでも不安が残る。
小学生の子どもを1人で入れることは、まだ私にはできない。
そういうわけで、ノコが観たいという映画に挑戦した。
先入観はいけない。
きっとおもしろいところがあるはずだ。
いいところ探しは得意でしょ!
自分を奮い立たせたが、照明が落ちると同時に睡魔が襲ってきた。
頑張れ、私。ファイトだ、私。
スクリーンのなかでは、ヒロインが跳ねて歌い、踊っている。
ノコを見やると、目をカッと見開いたまま、黙々とポップコーンを口に運んでいる。
そして、時折――前だけ向いていればいいのに!――私を振り返る。
寝てないよ、寝てませんよ。
意識を保とうとすればするほど、気が遠くなった。
「ママママ、ママママ、私、感動して泣いちゃったよ」
ポップコーンのバター醤油がついた指先をぬぐいながら、ノコがいった。
「そう。よかったねぇ」
「ねぇ、ママはどこがよかった? 感動した?」
「うーん……」
曖昧な笑みを浮かべて、私は首を傾げた。ごめん、わからん。
「ママってさ、私が好きなものに興味ないよね!」
ノコがつまらなそうに私を睨む。
「私が大好きなポテトだって食べないし。ガムとかだって食べないし。コーラも飲まないよね」
ごめん。
ノコと楽しみを共有できないのは、私だって心苦しい。
でも、これはもう趣向の違いなのだ。ノコだから、ではない。
映画館からの帰り道、ノコは書店で本を買った。嬉しそうに紙袋を抱きしめている。
「宿題と明日の学校の準備が済んでから、袋を開けてね」
本との蜜月に水を差したくないが、本を開いたが最後、ノコは動かなくなる。
「私、TVはなくても平気だけど、本がなかったら死んじゃう!」
TV大好きっ子だと思っていたので、本のほうが勝るというノコの発言に驚いてしまった。
隣を歩くノコの頭のてっぺんを見下ろしながら私はいった。
「へぇ、ママと同じだね。まるでママの娘みたいじゃん!」
ノコが弾けるように私を見上げた。
「ママの子だよ! ママの子だもん!」
「あらまぁ、あらまぁ!」
ふざけて尻相撲よろしく、ノコのお尻に私のお尻をぶつけると、ノコも負けじとぶつけてきた。
二人でお尻をぶつけあいながら、笑って笑って歩く帰り道。
「ママの娘だねぇ!」
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