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まだまだ読書感想文!本に向き合うには勇気がいる。~娘の夏休みの宿題~
#20240816-449
2024年8月16日(金)夏休み28日目
ノコ(娘小5)の夏休みの宿題、読書感想文がちっとも進まない。続けてではないが、かれこれ5日かかっている。
学校から支給されているタブレットを使い、キーボード入力をしたり、音声入力をしたり、一応取り組んではいるが、ちょこちょこ遊びと長い休憩が入る。
そして、私が夕飯の支度をはじめる時刻になると、ノコはいいだす。
「ママママ、ママママ、なに書いたらいい?」
この時間帯は避けてと伝えてあるのに、だ。
まず、課題図書について質問してみる。
きっかけがないと書きだせないと思い、初日は私とはじめた。
ノコらしさを出したいと思うと、アドバイスが難しい。下手な声掛けが誘導となりかねない。
悩んだ上、インターネットにあった読書感想文の書き方を使わせてもらい、質問をしてみた。
この本を読書感想文に選んだのはなぜですか。
この本をあらすじは教えてください。
好きな場面はどこですか。
嫌な場面はどこですか。
好きな登場人物はだれですか。それはなぜですか。
そういった問いが続く。
これはあくまで読書感想文を書くための「もと」なのだが、ノコは感想文にこの問いと答えを生真面目に突っ込んでしまった。そのため、文章のつながりがぎこちなくなった。
私は読書感想文に「○○」という本を選びました。理由は○○だからです。
この本のあらすじは○○です。
好きな場面は、○○で、理由は○○だからです。
嫌いな場面は、○○で、理由は○○だからです。
好きな登場人物は○○で、○○なところがいいと思ったからです。
「理由は」が何度も登場し、文末にはやたら「~だからです」が続く。
もう少しなめらかに問いと答えを感想文に組み込めないものだろうか。
質問の答えをさらに問うてみる。
未完成の読書感想文をプリントアウトする。文章ごとに切り抜き、テーブルいっぱいの大きな紙に貼る。答えが甘いところにボールペンで印をつけ、深く問うていく。
「ノコさん、この本を選んだ理由に『もっと知りたいから』と書いてあるけど、どうしてもっと知りたいと思ったの?」
「もっと知りたいは、もっと知りたいだし」
ノコが用紙を見下ろしながらいう。
「でもさ、この何冊もある課題図書のなかから、この1冊を選んだわけでしょ」
学校で配布された課題図書購入の封筒は、大きめで両面に本の表紙とあらすじ、価格が印刷されている。いくつもある課題図書からこの本を選んだからには、なにか理由があるはずだ。
「なにかがノコさんの心に引っ掛かったんだと思うんだよね。それはなんだろう?」
「そんな前のこと、覚えてない。それに忘れたし」
ノコは即答する。封筒が配られた夏休み前の学校に思いを馳せている顔をしていない。
文中の言葉の意味を確認してみる。
「じゃあさあ、1から10までの数字でノコさんにとって『少し』ってどのくらい?」
紙面に数字を振った目盛りを書くと、ノコの眉間の皺がより深くなる。
「3から4くらい?」
少しといったら、1や2ではないんだ。私は心のうちで驚く。さらに少ない状態を表す言葉をノコは持っているのだろうか。
「『少し』よりもっと少ないときは、なんていうの?」
ノコは面倒くさそうに私を睨むと、首を傾げた。
「やっぱ、『少し』は1から4にする」
「それなら、『少し』の反対はなぁに?」
「多し? 多い?」
「『多い』とか『たくさん』だね。じゃあ、たくさんは1から10だとどのくらい?」
用紙の余白に書いた目盛りをノコは指差す。
「9か10に決まってンじゃん!」
ノコが選んだ課題図書は、ノンフィクションで自然災害について書かれたものだった。
「嫌な場面」にノコは災害の場面をあげ、もし自宅の周辺でも同じような災害が起きたら「少しこわいと思いました」と綴った。大勢の人たちが住む家を失い、亡くなっていく状況を「少しこわい」と書くノコに私は違和感を持った。
まずは、「少し」という言葉の意味が私と違うのではないか、と疑った。
それから、悲惨な状況を自分自身に重ね、具体的に想像することができないのかもしれない、と思った。
自称「本好き」のノコだが、あっという間に読み終えてしまう。言葉が持ついくつもの意味に思いを巡らせ、適切な意味を選び、その場面を想像しているとは思えない。言葉の表面をサッとなでて、わかっている気分でいる感がぬぐえなかった。
「このあたりの家がぜんぶぜんぶ津波に流されて、パパもママも、そしてお友だちも死んじゃったら、その怖さはノコさんにとって1から10のなかのどれ?」
「100! 100に決まってるじゃん!」
ノコが叫んだ。
1から10といっているのに100では振り切るにもほどがある。
「でも、ノコさんは・・・・・・」
私はノコが書いた「少しこわい」を指差してから、1から10の目盛りのなかの「1から4」をくるりと囲んだ。
「少し、1から4だって書いているよ」
ノコがギロリと私を睨んだ。そして、立ち上がるとソファーに身を投げ出した。クッションに顔をうずめてうつぶせになり、表情を私に見せない。
「だって、この本、読みたくない」
「どんどん読みたくなるおもしろさがなかった?」
「おもしろいはずないじゃん!」
ノコは顔を上げると、私を光る双眸で睨めつけた。
「人が死ぬんだよ。おもしろいはずないじゃん。ママ、なにいってんの。わかってないね!」
そう一息にまくしたてると、またバタリとクッションに顔をうめた。
本に向き合うには、勇気がいる。
「この本は怖かったかぁ。読むのが苦しくなるくらい、怖かったんだね」
「もー、いいじゃん。読書感想文に関係ないじゃん」
それをそのまま書けば立派な読書感想文になるのに、ノコはどうも本心を書くことに抵抗があるようだ。
「関係あるよ。ノコさんが感じたその気持ちをそのまま書けば、読書感想文になるよ」
「なんないし。怖いなんて意味ないし」
睨む目に力はなくなり、涙が浮かんでいる。
「ほら、おいで」
両腕を広げると、のそのそとノコが近寄ってきた。私の膝に座りたいが、最近ぐっと大きくなった重くなったといわれているのでためらっているようだ。
「ほら、いいよ」
ノコが私の膝にまたがり、胸に顔をうずめておいおいと声を上げて泣いた。私のその背をなでながらいう。
「自分の心のなかにもぐっていってね、そこにある気持ちを探すの。その気持ちにぴったりの言葉を選んで書くの。そうしたら、ノコさんの気持ちが読んだ人にも伝わるから」
「そんなの読書感想文にならないよ」
「なるなる。上っ面だけの嘘っぽい言葉が並んだ感想文よりずっとよい」
「だれも、そんなの読みたくないよ」
「いやいや、書いてごらんって。パパもびっくりするよ」
私は一度強くノコを抱き締めてから、床におろした。
「はい、ママはもう夕飯を作らないと。ほれ、忘れないうちに今の気持ちを書いちゃいな」
ノコのお尻をポンッと軽く叩いて、テーブルに向かわせた。
「は――い」
間抜けた返事だが、ひと山越えてこれで書きだせるだろう。
たぶん。きっと。
いや、そんなに甘くはないか。
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