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娘からいろいろな話を聞きたいのに、「嫌だったこと」以外は滅多に口にしないのね。

#20240611-412

2024年6月11日(火)
 我が家では、里子のノコ(娘小5)にスマートフォンスマホを持たせていない
 インターネットがすっかり定着し、生まれたときからごく普通にスマホが身近にある世代だ。
 ノコは乳児院、児童養護施設で育っているので、一般家庭よりスマホが遠かったと思う。施設の職員が緊急でない限り、子どもの前でスマホを触るとは思えないからだ。だが、児童養護施設では高校生とも暮らしていた。職員は目の前で使うことはなくとも、同じ小舎のお姉さんたちはスマホをたくみに操作し、そこから広がる世界を楽しんでいただろう。

 1970年代生まれの私は、インターネットの普及とともに成長したといってもよい。
 次から次へと新しいデジタル技術やサービスが出る度に親が疎いことをいいことにあの手この手で説得して、使わせてもらっていた。おもしろくてたまらなかった。世の中もまだ使い勝手を模索中で、利用者はデジタルに興味のある人に限られており、サービスも十分ではなかった。
 もどかしかったが、狭い世界のなかで思考錯誤しつつ使い方を学んでいった。
 ノコのように生まれたときからデジタル技術が身近であれば、学びたかったことも多いし、子どもゆえ行き詰まっていたほしい情報も手軽に気軽に手に入れられたかもしれない。
 うらやましい。
 ノコにもスマホなどに使われるのではなく、使いこなしてほしいと思う。

 ノコに持たせないのは、まだ「自分をコントロールする力」が弱いからだ。
 TVテレビや漫画に夢中になり、やるべきこと――今のノコにとっては宿題であったり、用意することなど――がそっちのけ、後まわしになってしまう。約束の時刻になってもTVを消せず癇癪を起こしたり、夜遅くまでベッドでこっそり漫画を読みふけっていたりは日常茶飯事だ。
 これにスマホが加わったら!
 規則正しい生活を維持したい親が大変になるのもあるが、自分がやるべきことをしていないことを棚に上げ、ノコが不満だらけになってしまう。
 宿題や学校の用意などのやるべきことを済ませた後なら、睡眠時間を削らない範囲で好きなことをさせたい。だが、今のノコは目の前の「楽しいこと」が最優先。その誘惑に勝てず、未来に「お楽しみ」を据えることができない
 スマホを持たせたい気持ちはあるが、持たせられないのが現状だ。

 先日、小学生の里子を持つ里親交流会があった。
 乳幼児と違い、小学生になるとスマホをはじめゲームなどデジタル機器に関する悩みが尽きない。ある小学校ではチャットSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)によるトラブルが多発し、学校も保護者も頭を抱えているという。
 小学校でも定期的にインターネットやスマホに関する説明や注意喚起があるらしいので、家庭ではあまりいわないようにしている。一緒に見ているときにTVでそれらに関した事件が流れれば、説明し、便利だが怖さもあることを伝えているが、あまりいうとノコはヘソを曲げてしまう。
 「そんなこと知ってるし」「どうせ持たせてくれないくせに」とギラリと睨んでくる。

 私は夕飯を作り、ノコはすぐ近くのダイニングテーブルで宿題をしていた。
 珍しく機嫌がよく、鼻歌まじりで漢字の書き取りをしている。
 「ねぇ、ノコさん、ほかの小学校の話なんだけど、スマホでのトラブルがあって、クラスで問題になってるんだって」
 「そーだよ」
 ノコは手を止めずに漢字を綴る。
 「うちのクラスでもこのあいだあったし」
 思わず、野菜を切る手を止めて、私は振り返った。ノコからそんな話は聞いていない。
 「どんなことがあったの?」
 「あのね、よくわかんないんだけど。クラスのスマホのグループのなかでね、いじめ? 仲間外れ?――があったみたい。それに関係ある人たちは別の教室に移動してね。先生に怒られたみたい」
 「ノコさんは行かなかった」
 「だって、私、スマホないじゃん」
 ノコがちょっとむくれて私を見た。
 「ちなみに、クラスに残ったのは誰か覚えてる?」
 「うーんとね、私を入れて5人くらい。あとは、みんな行った」
 ノコのクラスは25人程だ。クラスの五分の四はトラブルに関わっていたということか。
 「そっかぁ…… うちの小学校でもスマホのトラブルがあったんだね。ママ、ノコさんが話さないからないのかと思ったよ」
 鉛筆を唇にあてて首を傾げ、ノコは天井を見上げる。
 「だって、私、怒られてないし」

 そうだった!
 ノコは嫌だったこと、悔しかったこと、痛かったことなど自分がされて不快に感じたことは次から次へと訴えるが、楽しかったことや嬉しかったことはあまり口にしない。
 今回の場合は、自分自身が先生から注意されたわけではないので、私に話すものではなかったのだろう。
 私としてはノコのさまざまな心の動きが垣間見える雑多な話を聞きたいのだが、なかなかそうならない。
 改めて、ノコの「ママに話したい話題」ランキングを見た夕暮れだった。


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