釘が登場する前にいいあてた娘の読書。
#20230911-238
2023年9月11日(月)
子ども向けの読み聞かせボランティアをしている。
所属団体は2つ。図書館と小学校。
図書館での活動のほうが先で、里親になる前から行っている。里子であるノコ(娘小4)が来るまでは、研修会や勉強会でのストーリーテリングの実習も子どもに語る当番も積極的に取り組んでいたが、今はノコを第一している。ノコの習い事と重なる当番は、むーくん(夫)の休日でない限り外してもらっている。
月1回の勉強会にはかろうじて出席するものの、ストーリーテリングの実習もしていない。
図書館でのボランティアは、絵本の読み聞かせだけでなく、「ストーリーテリング」という本も何もなく語ることもしている。ストーリーテリングは実際に体験してみると、朗読や読み聞かせ、一人芝居と違ったものであることがわかる。ベテランの方がなさると、語り手と聞き手の心理的距離が近くなり、一体感が生まれ、独特な共有体験ができる。
おもしろいのだ。
挑戦したい気持ちはあるのだが、なんせノコとの生活では練習する時間の捻出が難しい。今はノコが最優先。これから先、心配事は中身が変わることはあっても減ることはないだろうが、手は離れていくはずだ。そうしたら、ストーリーテリングの実習も再開しよう。
そう思って、毎月の勉強会に出席している。
勉強会でのストーリーテリングの実習は、3人ほど。
今日は、実習でははじめて聞く話が登場した。スウェーデンの昔話「くぎスープ」(*1)。
語り手の力もあって、物語がするすると入ってくる。あちこちで笑い声があがる。
物語によくある同じパターンのやりとりが繰り返される。この繰り返しのおかしさがじわじわと広がってくる。
後味もよい話で、聞き終えた後も笑いが残る。
もし、ノコが寝る支度を早く終えることがあったらーー最近はすっかり夜更かしでその機会すらないのだがーー、この話をしてみよう。
読み込んで何度も練習する時間はない。
今日1度聞いただけの話をノコにするだけだ。でも、あえて本を借りて読み聞かせをするのではなく、私の頭に残った記憶を頼りに語ってみよう。
その日から数日後。
なんと夜更かし娘のノコが早くにベッドへもぐりこんだ。
私はベッドのふちに腰掛けて、ノコにタオルケットを掛けながらいった。
「じゃあ、お話をひとつしようか」
ノコは目を見開き、ベッドのなかで体を揺らしてはしゃぐ。
私は記憶のなかの物語をまさぐり、口に運ぶ。
「あ! くぎスープでしょ!」
まだ物語の要、肝心の釘が登場していないのに、ノコが叫んだ。
「え、知ってるの?」
ノコがバッと起き上がり、本棚へ向かう。
「うんとね、うちにあるよ。このシリーズの・・・・・・これ!」
学年別に10分で読める話を収録されているシリーズからノコは1冊(*2)抜き取る。ぱらぱらとページをめくると、私に差し出した。
「ほら!」
小学3年生の後半あたりから、ノコの読書が乱読になった。とにかくむさぼるようにすさまじいスピードで次から次へと読みあさる。図書館で借りた本、ノコがほしいといって購入した本、もともと家にあった本。何度も同じ本を丁寧に読むというよりは、ざーっと読んで次に手を伸ばす感じだ。
文字をきちんと読んでいるかも怪しかった。
内容を理解しているのかは更に怪しかった。
まだ釘が登場する前に物語を当て、どの本か出して見せた。
日頃の会話や勉強を見ていると、読解力や記憶力に不安を覚えてしまうノコだが、思っているよりしっかり受け取っているのかもしれない。
「じゃあさ、ママ、この本の『くぎスープ』は読んだことないんでしょ。これを読み聞かせしてよ」
にわかストーリーテリングではなく、読み聞かせになってしまったが、1度しか聞いてない物語をあやふやに語るのもなんだ。
私は本を受け取ると、ベッドに座り直し、横たわったノコを見下ろした。
そのかたちのよい丸み帯びた額をなでる。
「よくあれだけでわかったねぇ。ママ、びっくりしたよ」
ノコが気持ちよさそうに、嬉しそうに目を細める。
「いっぱい読んでるから」
この頭にはまだ整理されていないごっちゃな記憶がたくさん詰まっているのかもしれない。
「じゃあ、読むね」
私は本を開いた。
ノコに手を掛かることを理由に実習から遠ざかっていた。でも、子育てにはきりがなく、なかなかストーリーテリングの練習再開の目処が立たない。
勉強会での実習では、図書館の児童書担当の司書さんと同じボランティアの大人たち相手に語る。練習が足りなくて言葉に詰まってしまっても、緊張で物語が頭から抜けてしまっても、本当に聞かせたい相手ーー子どもたちではない。失敗してもいい場なのだ。
当番はまだしばらくむーくんの休日が重ならないとできないが、ノコだってあと数年もすれば習い事にひとりで行くようになる。それまでに少しでも物語のストックを蓄えておいたほうがよい。
勉強が嫌で「なんでこんなこと覚えなきゃいけないの!」と怒るノコにとっても、うんうん唸りながらストーリーテリングの練習を重ねる私の姿を見せることは刺激になるだろう。
身近な大人が頑張る姿。
実習に失敗して落ち込む姿。
うまく語れて、はしゃぐ姿。
私はもっといろんな姿をノコに見せたい。
*1:「世界のむかし話」瀬田貞二/訳 太田大八/絵 学研 1977年
*2:「よみとく10分 10分で読めるわらい話 1年生」藤田のぼる/監修 学研 2020年