周りが見えない猪突猛進だからこその積極性だったのか。
#20231101-276
2023年11月1日(水)
「みんなね、私が発表すると、笑ったり、チラチラ見る」
下校したノコ(娘小4)が給食セットのコップと箸を流しに出しながら、いった。
「だから、私、ここのところずっと手を挙げてないんだ」
授業参観に行くと、ノコはずっと「ハイハイハイハイ!」と声を上げ、ピンッと挙手していた。学年が上がるにつれ、手を挙げる子は減っていき、決まった子しか手を挙げなくなっていく。そんななか、威勢のよい声で挙手するのはノコだけだ。
いくら元気がよくてもノコばかり指すわけにはいかない。ノコは挙げても挙げても先生に指してもらえず、ようやく名前を呼ばれたときには、いうつもりだったことを忘れてしまう。
立ち上がり、椅子を机のなかに入れる。
「忘れました!」
それでも、臆することなくはっきりノコはいい、また入れた椅子を引き、着席する。
ただ手を挙げていたわけではないと思う。答えるべき内容はあったのだが、ハイを連呼するうちに頭から押し出されてしまったのだろう。
指名した先生をはじめ、参観している保護者からも苦笑がもれる。クラスメイトのなかには、あからさまにズッコケる振りをする男子もいる。
ノコはめげず、次の問いにもまた手を挙げる。
運動会の応援団からクラスの代表委員ーーどうやら学級委員のことらしいーーとさまざまなものに立候補し、授業のはじまりと最後に号令をかけたいから、と日直はノコの大好きな係だ。昨年あたりから「緊張する」という言葉を口にしだすようになったが、基本人前に立ち、仕切るのを好む。
先日、中学生のお子さんがいる方とランチをした。
中学校では、なにかにつけ「積極性」を求められるらしい。ノコの話をしたら、「是非そのまま中学生になって」といわれた。
このまま小学校生活が過ぎていくかと思いきや、いきなりの「手を挙げていない」発言に内心びっくりする。
「一生懸命考えて発言している人を笑うなんて、いいたくなくなっちゃうね」
チラチラ見るほうは、発言者を見ようとしているだけに思う。授業中なのだから、しっかり見ても咎められることはないだろうが、もしノコより前の席の子ならば後ろを見ることに抵抗があるのかもしれない。
「先生は何もいわないの?」
ノコはじろりと私を見る。
「先生はなんもいってくれないもん。いうだけ無駄だし」
学年があがるにつれ、少しずつ視野が広がり、友だちの視線だの日頃の先生の言動だのいろいろなことが見えてくることで、積極性が失われていくのか。こんな急に訪れるとは思っていなかった。
ーーほかの子の目なんて気にしなくていいよ。
ーー発表できることは素敵だよ。
ーーやっぱり先生に相談しようか。
ーーママはノコさんが手を挙げる姿を見ると元気になるなぁ。
どれもノコの積極性の後押しになりそうもない。
気になるものを気にするな、といっても無理だろう。私の素敵だという言葉がクラスメイトの笑いを退けるほどの力があるとも思えない。
このまま、ノコはズンズン猛進していくのかと思っていた。
ノコの「このところ」も怪しい。この一週間なのか、昨日今日なのか。
もうしばらく様子を見た上で、本当に手を挙げなくなったのか確認してみよう。
私はどうやら思いのほかノコのがむしゃらな積極性を愛していたようだ。
消えそうな今、かなり焦っている。