「食」の楽しみを伝えたいのに、嫌いにさせているかもしれない。
#20230918-233
2023年9月18日(月祝)敬老の日
「はぁ」
夕食時、ノコ(娘小4)が食卓を見まわして重いため息をつく。
「私のイヤなのばっか」
一緒に暮らして4年経ったが、未だにノコの食の傾向をつかめないでいる。
好きな食材は、海苔、しらす、ウインナー、ハム、粉チーズ、トマト、わかめ、枝豆。
好きな料理は、ラーメン、ビーフン、カレーライス、塩むすび、じゃがバター、じゃがいものポタージュ。カップ麺。
外食だと、フライドポテト! コカ・コーラ、メロンソーダ。
ラーメンやビーフン、カレーライスも家庭料理となれば食材の在庫状況や季節によって多少具材が変わるので、ノコが絶対食べるという鉄板料理といいにくい。
豚こま肉やニラ、小松菜は噛み切れないといい、口に入れても吐き出してしまう。我が家に来たばかりの幼稚園児の頃は噛む力と飲み込む力がまだ弱いのかもしれないと思っていたが、永久歯が生えそろってきた今でも口から出す。
トマトやバナナなどの果物は少しでも黒ずみがあると、「何これ」と嫌がり、説明しても口にしない。
同じ食材でも調理法によって「食べる/食べない」が左右する。
できるだけ、美味しく楽しく食べてほしいので、ノコが「これ好き」といったものはまた作るよう心掛けているが、同じものを出してもまた「好き」というわけでもない。
トマトをすりおろした冷製スープが好きだといったので、トマトが安い夏はよく出した。大人には塩と胡椒少々とオリーブオイルをまわしかけるのだが、ノコはすりおろしたままがいいというのでそうしている。
先日、トマトが小粒で3人分に足りなかったのでちょいと試しにバナナを加えた。
敏感なので気付いて嫌がるかと思ったら、「美味しい美味しい」と飲みだした。
そのまま「美味しくてよかったね」で済ませればよかったが、つい「いつもと違うのをちょっと加えたんだ」とばらしてしまった。
「え? 何?」
ノコが怪訝な顔で問うてきた。
「さぁて、何でしょう?」
「ヒント、ヒント!」
いやぁ、もうわかるでしょ、というくらいヒントを並べたのに、ちっとも当たらない。結局じれたノコが「教えて教えて」というので答えた途端、顔をしかめた。
バナナはノコの嫌いな果物ではない。
ノコは気持ち悪そうにカップに口をつけたが、飲まないまま口をゆがめ、私のほうへカップを押しやった。
「もういらない」
まだカップに半分は残っている。
「さっきまで美味しい美味しいいっていたのに、中身がわかった途端、まずくなっちゃった?」
「気持ち悪い」
あとほんの少しだ。「飲んじゃいなさい」と強要してもよかったが、作った身としてはまずそうに食べられるのは癪だ。気分がよくない。
「じゃあ、いいよ。残しなさい」
私がすぐ引き下がったのが意外だったのか、ノコが押しやったカップを困った顔で見下ろしている。
そのまま私が食事を続けていると、ノコがそろりそろりとカップに手を伸ばした。
「無理しなくていいよ。無理して食べてほしくないから」
できるだけ平らな声を出したつもりだ。責めるふうにも、嫌味なふうにも、悲しいふうにもならないよう気を配った。
だって、嫌々食べてほしくないのは本当だ。
「私、すぐ忘れちゃうから、もう何入ってるか忘れたから大丈夫」
そして、ノコは仕事で帰りが遅いむーくん(夫)の分まで飲んでしまった。
そんなノコは食卓を見まわしての第一声が大抵「美味しくなさそう」「私のイヤなのばっか」「私が〇〇嫌いなの知ってて出すわけ」だ。
料理の腕前がそんなに下手だとは思っていない。むーくんは喜んで食べている。
結婚してから料理をはじめた私はレシピが欠かせないが、むしろレシピ通りに作るので味にぶれがない。
それにも関わらず、ほぼ食事の度にノコにそういわれると気が滅入る。
いっそ、ノコにだけ毎夕食に大好きなカップ麺を出そうか。
そうすれば、ノコのために避けていたピリ辛の料理やエスニック系の個性ある香辛料を使った料理も復活できる。
ノコの健康を考え、いろんな味や食感を知ってほしくて工夫していたが、そもそもノコが私の提供の仕方では「食」に楽しみを感じられないのなら意味がないのではないか。
カップ麺にすると気持ちを切り替えたほうが、全員幸せな気がしてきた。
あとは私が実行するかどうかだ。