レトロ座 2021年3月
月世界旅行 (1902年)
月面の片目に激突した竹の子のようなロケットから這い出てきた科学者達は到着を喜びつつもさっそく内部探索を始める。すると【きのこの森】が出現。ヴェルヌの小説「地底探検」でおなじみの風景が思いがけずここで映像化され感激☆それからお決まりの展開で月の住人(異星人)と遭遇し自然な流れで戦いに。このくだりになるとヴェルヌではなくHGウェルズの話からなのだそう。最後は竹の子ロケットでみんな無事地球に戻ってくる。終始バレエを観ているかのようなセットの造型と演者たちの動き。煩い台詞も無いサイレント映画の良さだと思う。
ふと思うのが、月に人間の顔をなぞらえるという図案センスはこの頃から世界的に浸透していたのだろうか🌛と気になって花王のロゴデザインを検索すると、こちらは19世紀末から三日月顔でしたという驚きの史実。P&Gはそれよりも更に40年ほど遡る。(但し後年デザインは変わったが)案外【月に顔】は東西いずれか中世以降に現れたのかも。西洋のタロットカードにはそうした表現があったと記憶しているが、古代ギリシア、ローマの美術で観た事が無いので。👈詳しい方いらしたらご指摘下さい。
【太陽と戦慄】のジャケットも当時は強い変革の印象を残しつつも、次第にイコンとしての役割を果たしている。キング・クリムゾンと言えば【宮殿】の「顔」に次いで名高く、なおかつ心理的緊張感のある表象デザインなのではないだろうか。(私はアイランズのほうが好きですが)高橋由佳利の少女漫画【お月様笑った?】タイトルが良い。月が笑うシーンはなくレトリックとしての暗喩。因みにヒロインはお好み焼き屋で働いていて、店長である幼なじみの夢は宇宙飛行士。
カリガリ博士 (1920年)
鬱々としているこの時期にこれを観て良いものかと一瞬立ち止まったが、そこはサイレント映画の美点なのか、こちらの思考を邪魔することもなく、台詞があっても音声が無い場面が連鎖するのはシンプルな心地よさがある。
ホラーと言えば確かにホラーなのだけど、やはり最後は人間が最も怖ろしいと思わせる話。コンラート・ファイトのメイクは色々と元祖だし、背景のセットに目を向けると奇妙でなにかの均衡を失った様な物語世界が創意工夫で表現されている。もともとはフリッツ・ラングが監督を依頼されていたが都合で引き受けずシナリオの手直しをするのみとなったのだそう。もし彼が監督だったら更なる落ちがついたかどうか一寸考えてしまう。