身体性と記号とモテ~「異世界はスマートフォンとともに」追加書評【基礎教養部】

さて,今回の書評では「身体性」をテーマにして書評を再筆するらしい.前回にて読み,そして今回も取り上げる「異世界はスマートフォンとともに」(以下 異世界スマホ)の内容についてはもはやいうまでもないが,改めて説明すると「チートスキルやチートアイテムを所持しつつ異世界に転生し,敵なる存在に対して無双しつつ異性に対してもほぼ無条件でモテる」といったようなものである.ちなみに,同性に対してもモテる,特にBL×異世界転生ものはまだ見たことがない.知っている方がいれば教えてください.先日アニメ化されていた「天才王女と天才令嬢の魔法革命」などがその範疇なのかもしれない.

さて,「身体性」という観点からこの「異世界スマホ」を捉え直してみよう.「小説家になろう」にて改めて冒頭を読み直してみたのだが,主人公である望月冬夜について,その容姿や身体的特徴に関する描写は私が見た限り存在しなかった.この特徴は,いわゆる「ライトノベル」作品と一線を画するものだと言える.例えば,ライトノベルにおける青春ラブコメの金字塔の一つと言っていい「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」における主人公である比企谷八幡は,「(腐った魚のような目さえなければ)整っているほう」「それなり」だとされる描写があるし,ライトノベルにおけるハーレム作品の金字塔である「ソードアート・オンライン」における主人公であるキリトも容姿については整っているという記述があった記憶がある.

故に,「異世界スマホ」という作品において,主人公が異性に対してモテ続けるのは,少なくともライトノベルという作品群が構成する文脈からは離れているといえるだろう.つまり,「異世界スマホ」の主人公がモテている要因は,「身体性」とは別にあるということである.

では,なぜ「異世界スマホ」の主人公はこんなにもモテるのであろうか.それは,やはり「異世界から転生したことに所以するチートスキルやチートアイテム,及びそれの行使に伴う結果」であろう.つまり,「記号」である.人間はとかく「記号」によって他人を判断することが多い.例えば,年収,職種,学歴,資産,業績…肉体とは別に存在し,解釈されることによってのみ意味が付与され,存在し続けるそれらの「記号」により,意識的にせよ無識的にせよ他人を分類することが多い.「異世界スマホ」における主人公も,チートスキルやチートアイテムという希少性,及びその行使による多大なる実績をもとに,モテていると少なくとも私が読んだ冒頭20節部分からは判断できる.
これは,「異世界スマホ」,及び同じような構造を持つ作品に要求される,「没頭性」へ好影響を与える特徴であると考える.つまり,主人公の容姿について記述がなければ,読者と主人公との距離がさらに近くなり,展開されていく物語について読者がより没頭できるのである.最低でも2~300ページを読み込まないといけないライトノベルというメディア形態ではなく,物語を短く区切り,かつその中でも読者を飽きさせないようにするために構築された工夫であると言ってもいい.メディアの形態によって,そこにて展開される作品は規定されるとはよく言及されるが,それはなろう小説でも同じことなのである.なろう作品という比較的短い内容でも,読者を飽きさせない展開を用意しないといけないという制約が課されているメディア形態だからこその発展だと言える.

スマホ太郎は,身体性をも超えた記号性をもってヒロインたちを攻略し続けているのである.というか,彼のようなチートスキルとチートアイテムがあれば,もはや記号性のみでヒロインを攻略していけるのかもしれない.身体性など,チートスキルとチートアイテムの前では単なるお飾りにしかすぎないのである…現実世界においては,そのようなアイテムはおそらく「資金」「資本」なのであろうが,身体性を無視した「資金」「資本」一本槍でどこまでスマホ太郎のように「攻略」できるのか,興味が出てきた.私はおそらくそのような質量の資金を手にすることは一生ないと思われるので,誰か定量的に裏付けられた調査があれば教えて欲しい.


いいなと思ったら応援しよう!