BGM conte vol.5 «夢中人»
「暇なの?」
「暇じゃないわよ。分刻みでこちとら動いてるの。今日はほんと、予定あるから、またにして」
「仕事、辞めた」
「え? いつ?」
「うーん、かれこれひと月前かな」
「なんで、また……。連絡するなら、辞める前でしょうよ」
「なんで」
「なんでって……力になれたかもしれないじゃない」
「自分のことは、自分で決める。わたし、そういう人だけど、知らなかった?」
「知ってたけど……」
「車、出してよ」
「今度は、どこよ」
「空港」
「また⁈」
「夕方のフライトだから」
「え? なにが?」
「わたし、香港に行くんです」
「え? どういうこと? 旅行?」
「遊んでる暇なんて、ありません。向こうで仕事を探すんです。だからしばし日本とお別れ。杏奴も、さびしくなるね」
「ほっときなさいよ。それにしても、あんた、そういうところも、あいかわらずだね」
「あいかわらずだよ。知らなかった?」
「知ってた」
「アレ、どうしたの」
車のなかで、杏奴が沙彩に訊ねる。
「アレって……これか」
言って、沙彩はショルダーバッグから取り出すと、銃口を杏奴のこめかみにおもむろに当てる。おもちゃの軽さ冷たさではない。
「なにやってんのよ。あんた、バカじゃないの」
「言われなきゃ、このまま持ち込むところだった。ありがとう」
「どうすんのよ、それ。わたし、預からないからね」
「大丈夫。これ、箸入れになるから」
そう言うと、銃身とグリップをそれぞれの手につかんでぐいと折り曲げて真っ直ぐにすると、たしかに金属製の細長い箱に見えないこともなく、どういう構造かよくわからないながら、スライド式の蓋を外すと、なかから白い箸が覗いた。
「なにそれ。手品みたい」
「今どきなんでも手に入るのよ」
出発ロビーでは互いにことば少なだった。フライトボードを見上げては、独り言のようにして、何時に何処行き……と呟く杏奴。今更沙彩を前にして間が持たないもなにもないが、要するに気持ちが追いつかない、と杏奴は混乱していた。
「でも、身軽って、いいね。辞めたい、となったらいつでも辞められるし、行きたい、となったら、香港へでもどこへでもいつでも行かれる。そして空港では、毎日こうしてひっきりなしに飛行機は行き来して人を乗せているわけだ」
「杏奴」
「なに」
「わたしは、正直、あなたが心配。これだけは言いたい。人生、偽っちゃ、ダメよ」
「なによ。偽ってなんか、いないわよ。心配なのは、どう考えても、あんたのほうじゃない」
二人して同時に噴き出す。ひとしきり笑ってから、沙彩は言う。
「泣きたいときには泣けばいい。怒りたいときには怒ればいい。ま、香港はいっても近いから。なんかあったら、連絡しなね」
「それもこっちのセリフ」
「わたしからばっかで、ずるいよ。たまには、あなたからも連絡してくれなきゃ。いつも待ってるのに」
搭乗客たちの長い列を見送って、沙彩が最後の最後にこちらを振り返って手を振り、ゲートの向こうに消えてから一秒か二秒して、杏奴は我知らず叫んでいた。
「沙彩、死なないで!」
沙彩を乗せた飛行機が離陸して見えなくなるまで見送ってから、杏奴は駐車場に戻った。
ドアを開くなり、助手席のシートの隅に、れいの箸入れが残されてあるのを見た。あの、おっちょこちょいが……笑うはなから、これ、わざとだな、と杏奴は沙彩の心を読んだ。
その夜、沙彩からケータイにメッセージが届いた。メール嫌いの彼女にしては、珍しいことだった。
「今日はありがとう。ついつい上から目線のわたしだけど、ほんとうはとても頼みにしてるんです。杏奴は掛け値なしの親友だよ。
ところで、出発ロビーで、なんか、『いなないて!』って叫ばれたんですけど、あれ、どういう意味ですか。チョー恥ずかったんですけど」
夢中人
一分鍾抱緊
接十分鍾的吻
陌生人
怎様走進内心
制造這次興奮
我倣似跟你熱恋過
和你未似現在這様近
思想開始過分
為何突然襲撃我
来進入我悶透夢窩
激起一股震撼
lalala~
夢中人
多麼想変真
我在心里不禁
夢中尋
這分鍾我在等
你万分鍾的吻
我倣似跟你熱恋過
和你未似現在這様近
思想開始過分
為何突然襲撃我
来進入我悶透夢窩
激起一股震撼
夢中尋
一分鍾抱緊
我在心里不禁
夢中人
這分鍾我在等
来制造心里興奮
心興奮
lalala~