【読書感想文】『子宝船』 宮部みゆき著
PHP研究所から出版された『子宝船 きたきた捕物帳(二)』は、宮部みゆきさんの江戸を舞台とした謎解き物語です。私はこうした江戸を舞台とした捕り物長が結構好きで、最も好きなのは畠中恵さんの『しゃばけ』シリーズです。こうした物語には、現代のミステリーと違うちょっと温かさがあるのと同時に、犯罪現場がリアルすぎないというのが好きポイントだと思っています。また、シリーズものでありながら、どこから読んでもなんとなくわかるというのが魅力のひとつです。
◎あらすじ
主人公の北一は、亡くなった千吉親分の本業だった文庫売りで生計を立てている半人前の岡っ引き見習いです。長命湯の釜炊き喜多次や、亡くなった親分の妻で目の見えない松葉らに助けられながら、岡っ引きとして成長していく物語です。
それぞれの物語については、読んでいただくのがいちばんというほかありません。短編捕物長なので、ここで内容について書くのは控えたいと思います。
小説としての魅力は、なんといっても人物像にあるといえるでしょう。
主人公北一は若いながら、礼儀をわきまえた青年ですし、どこか陰のある喜多次は釜焚きなのにめっぽう強い。大親分の政五郎、政五郎の元配下で昔の事件のことをくまなく記憶している通称「おでこ」など、魅力的な登場人物がそろっています。
おかみさんを助ける女中のおみつや、文庫づくりを手伝っている欅屋敷の若も、物語に温かさと粋な感じを与えています。
子宝船では赤ん坊に不幸があった家でのちに文箱を調べてみたら、子宝を授かると評判の七福神の絵から赤ちゃんを抱いた弁天様が消えていた、という不思議なことが事件の発端になります。そうしたエピソードも現代とは違い、小さな子供が生きながらえる確率が低かった江戸時代ならではの事件といえるでしょう。医学より神頼みのようなものが、確実に大きな影響を及ぼしていたように思います。
着物の襟から抜ける首筋に彫り物があるなんていうのも、なかなか色気のある演出だと思いました。しかもそれがおしろい彫りという、普段は見えず、体温が上がったときだけに現れるなんて、ますます色気があるではありませんか。
おしろい彫りが本当にできるのか思わず調べてしまいました。
残念ながら、実際にはないそうで、あくまでファンタジーの世界のもののようです。
なんでも知ってる「おでこ」さんは、思い出すときにははじめっから順番でないと思い出せないという御仁。学生時代のテストの暗記を思い出しました。頭っから言わないと思い出せなかったこと、ありませんでしたか?
長屋の差配人・勘右衛門や、欅屋敷の用人・青海新兵衛などに助けられる北一は素直ですが、へまもしでかしてしまう愛嬌のある青年です。人情味あふれる江戸の町にタイムスリップしたくなるような物語です。なんといっても読み物として、軽く読めるのがいいですね。読んだ後に後味の悪さや、暗さや悲しさが残らない、娯楽としての読書を楽しめる作品でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
読書感想文を書くのは難しいなと感じた作品でもありました。
江戸を舞台としたこうした物語は、現代のように法律でがんじがらめに裁こうというものではなく、人情や情けといった要素が入ってくるのが魅力です。
小説の巻頭に舞台となる本所深川の地図が載っていて、物語を読みながら、ここはこんな感じなのかなと想像力を膨らませる役に立ちました。
いきなり(二)を読んでしまいましたが、特に違和感は感じなかったのがこうしたシリーズ物の良さでしょうか。(一)を見つけたらぜひ読んでみたいと思います。
今日という日があなたにとって良い一日となりますように。
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