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【展覧会レポート】Tsuji Rieko「All is Love」Koichi Yamamura Gallery(麻布十番)

・作家名:辻 梨絵子(Tsuji Rieko)
・展覧会名:All is Love
・会 場:Koichi Yamamura Gallery
・会 期:2025年2月1日~2月23日(当初の16日から会期延長)

 30分間ほどの映像インスタレーション。スクリーンの前には8体の小さな〈ぬいぐるみ〉が円く置かれている。映像からは8人の英語のディスカッションの声が聞こえ、画面には8体の〈ぬいぐるみ〉が入れ替わり映しだされる。

展示室のInstallation View

 作家はベルリンに滞在しリサーチを行い、7人の参加者をオーガナイズした。そして、事前にどんなアバターになってディスカッションしたいかを聞き取り、それを小さな〈ぬいぐるみ〉に手作りした。ピンクの兎、パステルカラーのドレスの白兎、山羊、レインジャケットを着た蛤、グリーンの蛙、舌を出した黄色い犬、青い熊、白髭のおじさん。
 〈ぬいぐるみ〉をそれぞれ持ちながらディスカッションした会話を録音し、その音声に合わせて作家が〈ぬいぐるみ〉を持って振り付けた映像を後で収録し、編集した。

〈ぬいぐるみ〉は作家が動かしている。
この〈ぬいぐるみ〉も作家が動かしている。

 ディスカッションは自己紹介に始まり、友情と愛情の違いという話題に続き、パートナーとの機微、さらに深くそれぞれのセクシュアリティに及んだ。作家のファシリテーションの巧みさもあって、各参加者の話の内容が実に率直で驚いた。その中のキーワードを列挙すると、オープン・リレーションシップ、ポリアモリー、ノン・モノガミー、ジェンダーフルイド、ミスジェンダリング、アセクシュアル、デミロマンティックなど。
 初耳の言葉もあった。各参加者が自身のセクシュアリティ、ジェンダーに真摯に向き合っている姿勢が感じられた。

小さなペインティング

 わずか8人ではあったものの、それぞれのジェンダー、セクシュアリティには実に細かいグラデーションがあるが、おそらくそれが世の中の縮図なのだ。また、アバターが手作りの〈ぬいぐるみ〉で必ずしも写実的ではないことがかえって、各参加者が素直な本音を語り易くしている。そうした作家の手腕にも感服した。ジェンダーをテーマとした現代アート作品として、傑作のひとつといっても決して言い過ぎではない。

ギャラリーの正面

 なお、この作品の映像部分は、同時期の2月15日から2月24日まで、TODA HALL & CONFERENCE TOKYOで開催された、文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業成果発表イベント「ENCOUNTERS」でも展示された。最先端のデジタル技術が駆使される作品が多い中で、かえってアナログ的な本作品はキラリ光った。


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