見出し画像

朝日新聞・名文記者が語る五感に訴える文章の書き方

よく文章術では、五感を使って文章を書くことが重要であると言われます。
五感を使うことで、自分にしか書けない説得力のある文章を書けるようになると。

しかし、実際どうやって五感を使って文章を書いたらいいか戸惑う方も少なくないのではないでしょうか?

誰が何を言ったかという聴いたことは、誰でも書けるかもしれません。
一方で、音、味、匂い、触覚を表現することは案外難しかったりします。

新刊『文章は、「転」。』(近藤康太郎 著、フォレスト出版)では、「文豪の名文」や「著者が添削した例文」などを多数掲載し、五感を活かした文章の書き方について紹介しています。

この記事では、本書の中から「音や匂いや味を、比喩で表現せずに伝える文章」の一例を掲載させて頂きます。

 そのコーヒーを僕は四口ほどで飲んだ。飲むほどに、つまり四段階に分けて、僕は整理し直され、核心へと導かれた。その結果として、飲み終えたときの自分が、じつにすっきりと覚醒された自分であることを、僕は純粋な幸福として自覚した。
 ベートーヴェンとコーヒーをPCで検索すると、コーヒー豆は一杯につき60粒だった、という数字が出てくる。ごく当たり前の一杯のコーヒーだ。12粒という自分の記憶を僕はどうすればいいのか。

 
 作家の片岡義男さんが新聞に寄稿したエッセイです。
 
コーヒー好きで知られたベートーヴェンは、一杯につき十二粒をきっちり数え、コーヒー豆をひき、飲んでいた。片岡さんが、どこかで〝誤って〟記憶していたということを語ったコラムです。なんとも不思議な読み心地を残します。
 この文章からは、たった十二粒を大事そうにひくコーヒーミルの音が聞こえてきます。十二粒なんだから、きっと小さな、エスプレッソのようなカップなんでしょう。
 四口で飲み干せるような少量。これほど大事そうに飲むのだから、きっと湯の温度にも注意しているはずです。沸騰する直前に、火から下ろす。粉末となった豆の上から、少しずつ、湯を注ぐ。泡立つ音が聞こえる。高い香りが、部屋に広がる。お気に入りの、小さなカップを両手で包む。苦みの濃い深煎りか。フレッシュな酸味があるものか。日によって豆を変えているのかもしれない。
 音、香り、触覚、味覚が、文章から立ち上がってきませんか? わたしには、そう読める。
 
 整理し直され
 核心へと導かれ
 すっきりと覚醒され
 純粋な幸福として自覚

 コーヒーを飲むというだけの行為に、適切な文飾がされると、味も香りも温度も音も、立ち上がってくるものです。
 五感に訴える文章というのは、なにも、嗅覚なり味覚なりを、気の利いた形容語や比喩を用いて書くということではない。そこをしっかり覚える必要があります。

以上、五感で表現した文章の一例をご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。
 
五感を使った文章というと、「とろけるような」とか、「ふわっふわっの」とか、比喩表現を使いがちです。しかし、五感を使って文章を書くというのは、安易な形容に頼るのではなく、五感を使って世界をよく観察し、色や形状、香り、味などを自分の言葉に変換するということだそうです。そうすることで、読み手の想像力が自然と換気されるような文章が生まれると言えます。

ただ、わかってはいても、比喩を使わずに表現するのはなかなか難しかったりしますよね。

本書では、「視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚」の5つに分けて、文豪の名文を例に、それぞれの五感を表現した文章の書き方について解説します。もしご興味をお持ちいただけるようでしたら、ぜひお手にとって読んでみて下さい。

(フォレスト出版編集部・山田)

▼関連記事はこちら



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?