夏休みの読書感想文にふさわしいかどうかわからない面白い本を紹介します【前編】
こうも毎日暑いと日中は外に出たくなくなる。そうなると、クソ暑い外界を遮断して自室にこもるしかない。これぞ真夏の至福の時間だ。快適な空調が効いた部屋で、平日忙しくて読めなかった積読の本をひたすら読む。
というわけで、今日は夏休みの読書感想文の参考に「あんまり知られてないかもしれんけど、結構この本おすすめだよ」という本をいくつかご紹介しよう。
大平洋横断を手に汗握りながら追体験できる『太平洋ひとりぼっち』
1962年、日本人として初めて、小型ヨットによる太平洋単独無寄港横断に成功した堀江謙一さんによる、いわゆる「航海記」だ。初版は1962年。私が入手したのは、ちょうど20年まえの2004年に舵社から復刊されたもの。
そもそも19フィートの小型ヨット「マーメイド号」で太平洋を一度も港によらずにひとりで横断しようなんて、あまりにもクレイジーな計画だ(詳しくないけど、たぶん)。物語はそんなクレイジーな男の夢語りから始まる。
こんな堀江氏は、よほど海が好きな人なんだろうと思いきや、ぜんぜんそうでもないところがまた拍子抜けして面白い。泳げるのは50メートル程度らしい。
やがて、夢の実現に向けてヨットを手に入れて、航海の準備をする。本書84ページあたりから、いよいよ出航だ。
ヨット「マーメイド」に積んだ具体的なものの目録が15ページにもわたって紹介されている。「へえ、けっこうたくさんの荷物を積むんだな」と意外に思うはずだ。
99ページ「日本脱出」から孤独な旅が始まる。ここからは堀江氏の航海日誌とともにエキサイティングな冒険が追体験できる。この読書体験にかかるコストが「定価1492円」とは、あまりにも安い。
短いセンテンスの文体が心地よく、大平洋の大海原の情景とともに、激しい波の音、風の音や雨の湿気を感じるはずだ。
ちなみに1960~70年代ぐらいの本を読んでいていつも思うのは、意外と漢字を開く表記が多い。「渡る⇒わたる」「引き出す⇒ひきだす」「全部⇒ぜんぶ」など。
独裁者を独裁者たらしめるデザイン戦略を暴く『独裁者のデザイン』
副題が「ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東の手法」。平凡社から2019年に出たもの。著者はデザイナーの松田行正さんだ。松田さんといえば、4年前に出した苫米地博士の『マインド・プロファイリング【豪華書籍版】』BOXセットのデザイン一式でお世話になった。
先日、水面下で進行中の豪華書籍版の打ち合わせで骨董通りの事務所に伺った。用紙をどうするか、加工をどうするかと相談していると、松田さんは何度も席をおもむろに立ちあがる。そして「その加工やったのがこれ」「その用紙使ったのはこれ」と、膨大な本棚からピンポイントで過去に手掛けた作品を打ち合わせテーブルに持ってこられるのだ。すごい記憶力だ。
松田さんはデザイナーとしての活動の傍ら、けっこうなペースでマニアックなテーマの本を出している。
本書『独裁者のデザイン』では、タイトルの通り、独裁者たちがどういうデザイン戦略をもって大衆を扇動していったかが克明に分析されている。視覚資料も膨大にあり、よくぞここまで素材を集めたなぁと感心する。
内容もさることながら、造本にも凝っていて、このように書籍の小口をグニョっと左に伸ばすとスターリン、グニョっと右に伸ばすと毛沢東の顔が立ち現れるように作られている。
松田さんの書籍には、ほぼ全部この仕掛けが施されている。以前、制作過程を聴いたことがあるが、作るのも仕上がりをチェックするのも大変だそうで、スタッフ総出で取り掛かるとのこと。
単行本をAmazonで検索したところヒットせず、どうやらいまは文庫版で出ているようだ。
こっちもおすすめ。
おっと、今日は計5冊紹介するつもりが、ここまでで2000字を超えてしまいました。というわけで、残り3冊はまた来週の投稿でご紹介します。
では。
(フォレスト出版編集部・寺崎翼)