本の森 〜vol.1 Balloon 志水良さんの本棚〜
第一回目は、Balloon Inc. CEO / アートディレクターの志水良さん。中崎町の文甫会館に構える Balloon Inc. のオフィスの本棚をご紹介します。
【vol.0はこちら】
Q1.あなたに影響を与えた本を教えて下さい
その1:マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』
僕は大学院修了後、川崎和男先生のデザイン事務所で薫陶を受けました。技術や経験が無いこともあり、いつも川崎先生からのディレクションをどのように受け止め解釈するか、明確な指針が持てないままデザインに取り組んでいたのを覚えています。
端的なことばで指示をされるケースも少なくなかったのですが、そうした言葉の背後にある意図や意味を読み取らなければデザインができないという危機感から、いろいろな作品や本を調べていて見つけた一冊がこの『暗黙知の次元』です。
創造するというプロセスにおいて、言語で表現できる知を越えた暗黙的な知がそなわっていることを概念化して教えてくれました。単なる表層的な言葉の理解に留まるのではなく、その背後の奥行きに潜む意味を読み取るためのヒントになっています。
とはいえ本を読むだけでデザインが出来るようになるわけじゃない、という点が悩ましいところですね(笑)。
その2:ピナ・バウシュ『タンツテアターとともに』
大学の照明デザインの講義に来られていた先生が紹介されていた、ドイツの振付家ピナ・バウシュとその著作。
本だけでなく、ピナの監督するダンスカンパニーによる演劇表現の可能性や幅の広さについて教えてもらいました。
小さい頃から本を読んでいたからか、当時はなんとなく世の中の全てのことが言語化できるのではと思っていました。先生の講義やピナ・バウシュの舞台を目の当たりにし、言葉によって言い表せない創造の世界があるということに気づかせてもらいました。
99年の日本公演を観に行ったのですが、すでにピナ自身はかなりの年齢でした。そのため作品中も舞台に立つ時間は多くなかったように思います。
それでも、立ち振る舞い、歩く・手を挙げるといったシンプルな短い動作の中に注がれた、固い意思や思いのあふれる表現に圧倒されました。
その3:曽田正人『昴』
主人公である日本人(作中、非ヨーロッパ圏のダンサーはバレエに向かないと描かれる)の女性バレエダンサーが過酷な状況を乗り越えながら、バレエを通じて創造とはなにか、表現とはなにかということを示してくれる作品。
作者の曽田正人氏は「才能」を描くのが非常に上手な作家さんだと思います。それぞれのエピソードが非常に示唆的で、デザイナーにとっても重要な哲学や姿勢などについて考えさせられました。
印象深いのは、これは僕の解釈ですが「人知を超えた判断によってその文化の神聖性が保たれる」エピソードですね。
昴の師匠は、実力がありながらヨーロッパのバレエカンパニーへの入団が拒否されてしまう。それは彼女の祖母が歳を重ねたときにふくよかな体型になるから、あなたも同じようにバレエに向かない体型になるだろうという理由なんですね。
彼女自身の努力によってはいかんともしがたい理由によってその道が絶たれてしまうことを「神の視点によって選ばれる」と表現していたと思います。
この、説明しているようで何も説明していない潔さになんとなく納得してしまいました。
こうしてみると『暗黙知の次元』やピナ・バウシュと同じで「創造性のもっとも重要な部分は言語化できない」という事を気づかせてくれた本ばかりになりました。
Q2.いつから、なぜ本を好きになったのか?
両親が本好きだったので、比較的身の回りに本が多かったのが一番の理由だと思います。気に入っている作家の新著が発売されると、発売日には家にあったのも印象的でした。マンガは読みすぎると怒られたのですが、なぜか活字の本は頼めばいくらでも買ってくれたのも大きかったかも。
幼い頃はそうして与えられた本を読むことで知識や世界が広がった気になって、それに浸って読んでいた感じですね。
初めて自分で買った本は新潮文庫の海外の作家の作品だったかと。中学生くらいの時に本屋さんへ行って、自分で買える価格だと文庫本一択なんですよね。その中でも唯一スピンが付いていた新潮文庫が気に入っていました。しおりがなくてもいいですし。完全に形から入っていますね。
なので今でも、凝った装丁や珍しい紙の本は好きです(笑)。
Q3.創造性(クリエイティブ)に関する or デザイナーにおすすめの本を教えてください!
『MEAD GUNDAM』 シド・ミード 著、高橋良平 編集/2000
ガンダムのアニメーションシリーズ『∀ガンダム』制作のために、SFデザインの巨匠、シド・ミードに依頼。そのデザイン決定までのスケッチプロセスや制作側とのやりとりをまとめた書籍。
冒頭には、シド・ミードが最初に着手したと思われる既存ガンダムの造形・機構の分析と、各パーツの寸法や人体とのスケール比較が。その分析をベースに、これまでのデザインとは大きく異なる方向性のデザインが検討されていく。
人の身体に直線が無いのと同じように、(特にスケッチの段階では)すべてのラインが円弧によって描かれており、日本のロボットアニメーションの持つ造形的な文脈とは一線を画す表現になっている。
荷重に耐えられる太い脚、コクピット開口部分のヒンジや回転半径、可動部周りのパーツの干渉など、シド・ミードがこだわった機構の実現可能性と、あくまでアニメーションとしてのロボットデザインを求める制作側が、複層的なフィードバックを通じてひとつのゴールに収斂していく様は、デザイン(創作)におけるプロセスの記録として非常に貴重で有用なのでは、と思います。
Balloon 志水良さんの本棚(ほぼ)全リスト
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