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クレア・キーガン「別れの贈りもの」(「青い野を歩く」収録)-何気ない日々の延長からふっと切り離される瞬間

実家に帰省した時、母が図書館で借りてきてくれていた本で、気に入って自分でも買い求めた一冊である。(母は私の趣味を分かってくれていて、帰省に合わせてよく素敵な本を見繕って借りてくれている。ありがたい)

作家はアイルランド出身の方で、この短編集が2作目らしく、日本ではおそらくこの作品しか出版されていないはず。早く次の作品が読みたい・・・。

8つの作品が収録されているこの短編集の、最初が「別れの贈りもの」だ。

この短い作品を読んだ読者は、著者がどんな作家なのかすぐ分かるだろうし、自分のように一瞬で心を掴まれる人もいるだろう。自己紹介としては、これ以上ないぐらいの作品だ。

「別れの贈りもの」あらすじ

説明が極端に省かれている文体ではあるが、読み進めるうちに、主人公は若い女性で、どうやら生まれ育った田舎の農家を離れる出発の日であることがわかる。

母親とのなんとも言えない距離感から、読者は少し、単にセンチメンタルな別れという以上の緊張感を感じざるをえない。

そして次第に明らかになる父親による過去の所業、兄の打ち明け話・・・。

物語は、おそらく時間にすれば2~3時間ほどの場面を切り取ったものなのではないかと思う。

主人公の内面とリアルタイムにシンクロしながら、読者は彼女と一緒に、濃密でシリアスな時間を味わう。

人生に時々訪れる、何気ない日々の延長からふっと切り離される瞬間を。

なぜこんなに共感してしまうのか

この作品の特徴として、主人公のことを「私」や「彼女」ではなく、一貫して「君」と表現している。

君は思う、君は言う、というように。

多くの読者もそうだと思うが、この文体のせいもあり、私は読みながら彼女(主人公)の内面にどっぷりはまってしまった。

彼女が育った家庭環境は一般的とは言えないし、単純に共感するには特殊すぎる。

それでも、誰にでも多かれ少なかれ、ラストシーンのような彼女の気持ちで、個室の扉を閉めるまで涙を堪えた経験があるのではないだろうか。

孤独とか切なさとかいう単純な言葉では言い表せない、心の奥底にじんわり染み込むような余韻を味わえる作品だ。


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