『メガネ初恋』 #毎週ショートショートnote【一途編】
長い間、待ち焦がれていたメガネ初恋キットをようやく手に入れた。
恐る恐る箱を開けると、オルゴール付きメッセージカードのように自動で音声が流れ出し、メガネの取り扱い方を説明してくれる。
全て聞き終えてから私はメガネを耳にかけ、早速、手近にあった物を掴んで訊いてみた。
「これは何だい?」
「それはテレビのリモコンです」
と、メガネが応えた。
このメガネのフレームのブリッジには音声を聞き取るマイクが、左端の智には小さなカメラが着いており、右側のつるの先がイヤフォンのようになっていて骨伝導で私の答えを教えてくれるという、目が薄くなった私にはとてつもなく便利なメガネだった。
嬉しくなった私は、慌てて転ばないように気を付けながら妻の部屋へ向かう。
ベッドに横たわる彼女の深い皺を感じる温かい手を握り
「この人は誰だい?」
とメガネに訊ねた。
「その方は貴方の初恋の相手です」
朧気にしか見えなくなった妻に気づかれぬよう私はそっと目尻を拭った。
シンプルなお題だからこそ、かなり悩みました。これまでにもメガネ作品をたくさん書いていることもあって。優しい作品にするか、ブラックな作品にするかも含めて……
でも初恋なので、そこはね! さすがの私も優しい作品にしましたよ(笑)
カメラ付きメガネや、音楽の聴けるメガネがあることは知っているのですが、音声を聞き取って、質問に答えてくれるメガネが実際にあるのかはわかりません。ただ視覚障がい者向けの携帯型色認識装置があることは聞いたことがあります。(ちなみに右耳が音声なのは、左側に心臓があり本能的に警戒しやすいため右側から声をかけた方がいいと聞いたことがあるからです。まあ利き手と同じで、個人差もあるかと思いますが。)
だから、そういった機器を使っている方は、実は健常者より色の名前に詳しかったりするようです。(↑カラーコード付きなので、良かったら参考にどうぞ!)
そんな機器があると教えてくれた、大学の教授のお気に入りの赤い鞄にその機器をかざしたら「くすんだ赤」と言われて腹が立ったと笑いながら話していたのが、今でも心に残っています。よっぽど使い込んでたんでしょうね🤭
※ところで「目が薄くなる」って表現は標準語じゃないんでしょうか🥺? 日常的に使っているけれど、一応調べてみたら辞書には載ってなくて方言と出てきたので、驚きました…「色素が薄くなる」とは違うし「(老化現象として)目が悪くなる」というニュアンスなため、そのまま表記しています。(同じ目が悪くなるとはいえ、若者にはあんまり使わない言葉です…どこ発祥の言葉なんや…)
視覚障がい者を取り上げた、
こちらの小説もオススメですよ~🤗✨
(表紙からも今の時期にぴったりかと!)
裏お題のこちらもよかったらどうぞ~