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3分小説 『ずっと手のひらの上にいてくれよ』


「この服、変じゃない?」
「似合ってるよ」
「ほんと? 陸人りくとくんも好きかな?」
「うん、絶対好きだと思うよ」

……なんて嘘ばっか。

適当な笑みを浮かべて平気で偽りの言葉を並べられるようになった自分にほとほと呆れる。

確かに似合っている。だけど、陸人はもっとシンプルで大人っぽい服の方が好きだ。


でも本当のことは話さない。

話したところでこれから実琴みことの身に降りかかることにたいした違いはないだろう。陸人が俺の言葉を真に受けていたら……だけど。



「陸人、幼馴染みの実琴」

そう紹介したとき

「ふふ、いつも聡真そうまからお話聞いてます」
「……ども」

実琴に笑いかけられ、恥ずかしそうに顔を背ける陸人を目の当たりにして、瞬間的に悟った。きっとすぐに互いに惹かれ合うんたろうなって。それくらい実琴は陸人を眩しそうに眺めていたし、実琴を見つめ返す陸人の目は優しかった。

結ばれるのも時間の問題だと思った。でも俺は最初から二人のことを応援する気など微塵もなかった。

二人の仲を取り持つように見せかけて、俺は罠を仕掛けた。



「……聡真」

ほら、やっぱり。

陸人と会うと言って出かけてから二時間もしないうちに帰って来た実琴は目に涙を浮かべて俺にすがる。

「どうした?」
「陸人くんにね、もう会うのはやめようって言われたの」

そうやって泣きそうになりながら、俺に報告してくる実琴が


「なんでなのかな?この前までいい感じだと思ってたのに……私、何か悪いことしたのかな?」

愛おしくて、大好きで。

実琴は必死で自分が嫌われたきっかけを見出だそうとする。でも、どんなに思い返したって実琴の中にその答えはない。


だって、実琴がフラれるよう仕向けたのは、他でもない俺なのだから。


実琴は陸人が好きで、陸人は実琴が好きで、誰がどう見たって両想いだった。そんな二人を引き合わせた俺がそれぞれの恋愛相談になるのは必然で。

そのポジションを利用して嘘の情報を流すのなんて容易いことだった。


「……私の何がダメだったのかな?」

ちがう。実琴が悪いわけじゃない。

少なくとも数日前の陸人なら、喜んで実琴の思いに応えていただろう。

だけど俺が陸人に嘘を教えた。実琴には他に好きな男がいて、陸人のことを疎ましく思っていると。

アイツはああ見えて臆病だから。勝ち目のない賭けはしない。フラれる前に自分から区切りをつけた、ただそれだけのこと。


「実琴が悪いわけじゃないよ」

そう慰めてやれば、実琴は安心したように目を細める。


「たまたま上手くいかなかっただけで、実琴が悪いわけじゃないよ」


いつからだろう。大好きな人の大切なものを平気で奪えるようになったのは。


「俺はちゃんと実琴ががんばってたこと知ってるよ」

大切なものを失い絶望した彼女に優しい言葉をかけ、結局おまえには俺しかいないのだ、とまじないをかけるようになったのは。


少しだけ抱いていた罪悪感はいつしか優越感に色を替え、俺を快楽の海へと誘う。


好きだ、どうしようもなく実琴のことが。


俺以外の男を視界にいれないでほしい。
実琴は一生俺だけを見ていればいい。


でも、完全に実琴を手に入れてしまったら、いつか他の人を好きになって俺の元から消え去ってしまうんじゃないか……そんな不安に苛まれ、居ても立ってもいられなくなりそうな自分に怖くなった俺は


「……ありがとう、聡真」

実琴の一番近くで、一番頼られる存在でいるために男友達というポジションでいることに決めた。


 そのためにはどんな卑怯な手段も厭わない俺はどうしようもなくズルい男。

(20151023 改編)



 こういうちょっとヤバめな作品を書くのが好きなヤバめな女です💁

 男友達といえば、千早茜さんのこちら。

読んだ当初はずっちぃな! と思ったけれど、今読んだらどう思うかなあ……やっぱズルいというか、主人公達の年齢から考えて幼いと思いそうな気がする……🤔

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