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『釜揚げ師走』 #毎週ショートショートnote【口伝えの習わし編】


これから始まる儀式に緊張しているのか胸がざわざわする。大人になっても夜中にこの場所に近づくのは怖い…それより恐ろしいのはこの仕来しきたりの方か?

俺が持った鍋から立ち昇る白い湯気。その中で踊る麺の色だけいつもとは違う。黒く染めているからだ。

墓地に着くと先客が集まっていた。本来なら各家庭ごとにやるのだが、高齢化が進み近所の人と分担するようになった。独り身の俺には助かると思っていたら実は一番面倒な役を押しつけられていた。


今夜から明後日までは死者達のお正月と言われる釜揚げ師走の日。この期間、現世の物事がひっくり返る。そのため最年長で敬われるはずの俺が顎で使われているのだ。

「遅ぇよ、おっさん」

一番若そうな男に睨まれる。

「すみません…練り込むのに時間がかかりまして」
「わかったからさっさと終わらせちまおう」
「はい」

俺は黒いうどんを箸で掴み、若者の口へと運ぶ。そいつが喉を押さえ悶え始めた時の周囲からの視線で俺の選択が正解だと悟った。



 辰巳たつみ参りなるものがあるそうで……実際にはこの作品とは少々異なっているのですが、気になる方はググって下さい🫠(うっすらと地元がバレちゃうから🥺

 ただ実際の持ち物や仕来りは経験者によると大の大人でも結構怖いみたいです🔪💦

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