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お母さん…いるかな

「お母さん…いなくなってるかもしれない」

小学生の私は毎朝登校の歩みを進める中
そう思っていた。
今思い返せば、大袈裟なこと…。
それでも当時は本気でそう思い、心配で不安で心はいっぱいだった。

父の振るう暴力は毎晩のことで
食卓に並ぶ皿、コップ、箸からスプーンまであらゆる物が、父の気分次第で宙を舞う。
体を使った暴力以上に心を抉ったのは
母や私たちに向かって放たれる暴言だ。
私に対する身体的虐待、心理的虐待については、私自身、既に諦めていて
「自分が我慢すればいい」という
自己犠牲の感情と姿勢が完成していた。
だが、母に対しては、毎日繰り返されるDVを目の前にして
私の心は日に日に消耗していった。

そんな毎日に、母は
いつか耐えられなくなるのではないか
家を出ていってしまうのではないか
漠然とした不安に私は包まれていた。

登下校の道中…特に下校の夕暮れ時には
母がいないかもしれない…
そう思うと苦しくなり
泣きながら帰路を急ぎ走った。

夕焼けに染まる
茜色の涙を連れて…。

父のこと
母のこと
家族のこと
辛かった記憶のフラッシュバックは
今も…茜色の涙とともに私を縛り付ける。

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