みんなの春告魚
暦の上では、5月5日の立夏から夏が始まっているようです。上着を着ずに通勤や通学している人も増え、通勤中に聞いているラジオでは夏の曲がリクエストされていました。夏も近づいているのですが、今年最後の春の話をしてみます。
春の魚といえば
タイトルの春告魚は、本来はニシンのことを言います。北海道では春になるとニシンが産卵のために大量に沿岸部にやってくることから、ニシンの異名としてつけられたようです。ただ、ニシンは北海道の魚であり、南北に長い日本では地域によって春先になると取れる魚が異なるため、現在では地域によってさまざまな魚が春告魚と呼ばれています。高知県ではカツオや伊豆半島のハマトビウオが春告魚となっているようです。魚ではないのですが、個人的にはホタルイカが好きだったりします。ここでは、私が住んでいる兵庫県南部では、春を告げる魚と言えばメバルかサワラについてお話しします。
メバル
メバルは私が本格的に寄生虫の研究を初めるきっかけとなった魚です。それまで魚の見分け方も分かっておらず、釣り方や捌き方など魚についてのあらゆることをメバルを通して学びました。このメバルは、私が研究をはじめた頃にアカメバル、クロメバル、シロメバルの3種に分かれました。生息する環境が異なるため3種が同じところにいるのは珍しいです。ちなみに、春告魚と呼ばれているのはアカメバルのようで、このメバルはアマモが生えているところにいます。色々な食べ方がありますが、私は煮付けが好きです。先日、母の作った煮付けを久々に食べたのですが、あの味はなかなか出せません。煮付けも一種のお袋の味なのでしょうか?
サワラ
あまり魚に詳しくない瀬戸内民にとっては、サワラは春にしか取れないイメージの魚です。私も、昨年末に若狭湾の漁港でサワラ(サゴシ)を見て、食べておいしさに驚きました。最近は生息域が北上しているようですが、主に日本の南の方では一年中取れます。ただ、春になると産卵のために瀬戸内海に移動してくることから、瀬戸内での春告魚となっているようです。
イカナゴ
これは我が地元神戸の春告魚ではないかと思います。神戸をはじめ明石などでは、くぎ煮というイカナゴの稚魚を醤油、砂糖、ショウガなどで甘辛く煮た佃煮を作ります。元は漁師料理で濃い味だったらしいですが、明石の漁協の女性職員の改良で家庭に広まったようです。私も高校生の頃の春の朝ごはんは、いかなご(私の家では、いかなご=イカナゴの釘煮でした)を白米にかけたものでした。
ただ、2010年代くらいから漁獲量が激減しています。乱獲?水温上昇?水質の悪化?など色々と原因が考えられていましたが、激減の原因は兵庫県水産技術センターによるとイカナゴの餌となる植物プランクトンの減少のようです。では、なぜプランクトンが減少したのかと言うと、瀬戸内海の海水中に含まれる植物プランクトンの栄養不足によるものだそうです。兵庫県南部は1970年代頃の工業化と人口の増加による排水が原因で赤潮がたびたび発生していました。赤潮はプランクトンの異常発生により起こる現象で、養殖魚のエラにつまって窒息させる、一斉に呼吸をして酸素を大量消費してしまうなどの問題を引き起こします。そのため、下水処理場を整備して排水の量を減らし、赤潮の原因となるプランクトンの養分を減らす施策を行ってきたてきた過去があります。それが積み重なってきれいな海になったのですが、植物プランクトンの養分も無くなってしまったというわけです。
海に生息する生物は、植物プランクトンが光合成を行ってつくった有機物をもとに生きています。兵庫県水産技術センターの方が言うように、瀬戸内海(兵庫県南部)の植物プランクトンの数が減ってきているのであれば、他の魚にも影響がでているかもしれません。兵庫県は植物プランクトンの養分を増やすべく、海底を爪のついた機具で掘り返して、海底に沈澱している植物プランクトンの養分となる物質を海に放出しています。また、植物が育つために必要な養分が大量にたまっているため池の水を抜いて海に流すなど、瀬戸内海を適度に汚す取り組みが行われています。
春告魚と聞いて、そういえば今年もいかなごを食べていないと思い、少し調べてみました。なんといっても、神戸市の垂水はけっこうな種類の海産魚の寄生虫の発見地となっています、資源が回復することを願っております。
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