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『虚いの朝』
昨日友と入った温泉に今朝は一人で入った。
夜通し語り明かすはずであった彼は
急な仕事に連れ去られてY字路の片割れへ別れた。
隣のベッドに目を向けると
透明な彼が浮かび
直後に昔愛した恋人も浮かび上がった。
昨日手にした3万円は
一晩の享楽に消え去った。
可愛らしい女の子達との
派手な談笑に笑い果てて
3万円は塵になった。
行き場を無くした愛が
誰かの笑顔を求めている。
露天風呂から景色を一望すると
白い帽子を被った赤城山と目が合った。
彼が出会ってきた数えきれないほどの人生はいま何をしているのだろうか。
仄かに残る温泉の香りを身に纏いながら
七草粥を1人で食べた。
ほどほどに美味しかったが、静かすぎた。
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