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待草雪
2019年12月4日 21:28
1−5 生気を失った姉の目が、ショックを受けている最愛の妹を見つめている。 全身の力が抜けたメロンは、肩から大きく崩れ落ちる。無残な姿と成り果てた家族の姿に、滝のように涙が溢れ出してくる。 カマックは天井を眺めると、虚ろな瞳に火を付ける。震える両手を握り締め、鞘に納めている武器に手を掛けると、 鎧を纏った男達に、背後を包囲された。「おやおやそいつは知り合いか?どうする?お前達は袋の鼠だ
2019年11月12日 12:06
1ー4――遙か遠い場所から、小鳥の囁き声が聞こえる。暖かい日差しと心地よい風が、身と肌を優しく撫でてくる。 揺れ動かされた髪が頬を摩ると、うめき声を出した少女の意識が戻る。ぼんやりとした思想と視界が徐々に鮮明になった時、薄暗い空間で初めて見た景色は、 目の前に広がる、大きな一筋の虹だった。 半開きの巨大なガラス窓の先にある美しい七色の帯は雲の間をすり抜けて、岩山の向こうの遙か遠くへと伸びて
2019年11月12日 12:00
1ー3 薄暗い鉄壁の部屋に、一人の男が立っている。周囲に積み重ねられた鉄の箱から不気味な蛍光色の光が溢れ出ており、細かい電子音と水の中から時折空気が吹き出すような音が、しきりにやかましく聞こえてくる。 壁に付いた小さな窓から、鳥になって眺めているような高さからのフィオラの街並みが見える。美しいとはいえないが広大な風景に興味を示す素振りは無く、着ている薄汚れた赤い軍服の端を指でいじりながら足の
2019年11月12日 11:57
1ー2 幻想的なグラデーションの色彩をした短い髪と共に、頭に巻かれている長い二枚の鉢巻きが風に揺れている。少年は少女と仲間達の視線に気付くと、笑顔で話し掛けてきた。 「怪我はない?」「調子乗ってるんじゃねえぞ!このガキいい!!」 背後から襲いかかって混紡は、振り向いた少年の剣によって簡単に防がれる。 2本になった棒は、瞬間的に4つに斬り分けられる。バラバラにされた混紡を拾う間もなく、続
2019年11月12日 11:48
一羽の鳥が飛んでいく。 果てのない青に包まれて行く先に、雲が転々と浮かんでいる。遥か地には大地と海が、緩やかな弧を描いて広がっている。 目指しているのか偶然なのか、何よりも澄んだ一本の美しい虹が鳥の頭上に伸びている。消えない不思議な七色の帯は何処までも果てまで、この世界を一直線に伸びている。 遙か昔に人は、この世界に名を付けた。 『フィルアース』。 今から二年前、二つの国によって行わ
2019年11月12日 11:38
0-5
2019年11月12日 11:34
0-4「説教出来る相手を間違えているぞ小僧、戯言は彼の世でほざけ!」 男が手にした斧で地面を叩くと、兵士達がカマックを囲む。少年が腰から引き抜いた剣は卑劣な大人達の姿を刃に映すと、澄んだ金属音を響かせた。「武は「止める」という字を含む、争いを止める道が武道なり。剣は悪しき者から弱き者を守る為に握る物。気高く純真成れば斬れぬものなぞ無し! 悪い奴は俺が成敗してやる!食らえ、イズモヤマト流・
2019年11月12日 11:30
0-3 平原地帯の林の朝は、冷えた新鮮な風が草木を揺らし、車のタイヤが突き出た沼に幾重もの波を作り出す。 天に再び浮かんでいる虹を眺めていたカマックは、握っていた鞘付きの剣を腰に戻す。日課の素振りを終えてカルッサ村のハルの宿屋に帰ると、部屋のベッドで爆睡しているトカライを布団を掴んで振り起こした。「のだのだ、もう朝なのだ?朝バナナ茶を飲むのだ?」「いいです、いらないです」 寝ぼけたトカ
2019年11月12日 11:27
0-2 ――最果ての村カルッサ―― 東世界の最果てとされる辺境の村。貧しい農民達が暮らす集落で名産物は無く、外部からの訪問者は滅多に来ない。 大戦時に主戦場となった二大国の国境の近くにある為、戦争中よりアルカディス帝国から略奪被害を受けており、村人達は今なお根深い恐怖心を持っている。同時に戦争の武器であった「魔導士」に憎悪を抱いており、無垢な子供も大人を真似して「魔導士」を差別するようにな
2019年11月12日 11:24
――神様、神様。もし居るのでしたら教えてください。 何故私は、この世界に生まれてきたのですか? 何故この世界は、このようになっているのですか? 何故私は、このように生まれてきたのですか? そしてもし居るのなら、教えてください。 この運命を変える方法を。この怨恨に立ち向かう、勇気を持つ方法を。――