Guilty Braves Truth1:荒廃の街フィオラ/行こう、誰もが幸せになれる土地へ【1-4】
1ー4
――遙か遠い場所から、小鳥の囁き声が聞こえる。暖かい日差しと心地よい風が、身と肌を優しく撫でてくる。
揺れ動かされた髪が頬を摩ると、うめき声を出した少女の意識が戻る。ぼんやりとした思想と視界が徐々に鮮明になった時、薄暗い空間で初めて見た景色は、
目の前に広がる、大きな一筋の虹だった。
半開きの巨大なガラス窓の先にある美しい七色の帯は雲の間をすり抜けて、岩山の向こうの遙か遠くへと伸びている。目を地に向けてみると、覆うように広がっているフィオラの街が玩具のように小さく、所々に建っているビルの破片が、骨からそぎ落とされるように音を立てて崩れていった。
「……」
遠くにある住んでいる場所と、届きそうな程近い澄んでいる場所を見比べてから、無意識に辺りの様子を観察する。薄暗い閉鎖された空間に、細かい金属音が響いており、水から泡の吹き出る不気味な音が不定期に聞こえてくる。不思議な空間に違和感を覚えながら身を動かそうとした時、
自分が今、拘束されている事に気が付いた。
厚い鉄で出来た椅子に足と腕をロープで硬く結び付けられており、古代文字のような痣の彫られた右手の甲を、半球体の硝子が包んでいる。硝子から伸びている太いパイプが背後にある2つの円柱の物体と繋がっており、泡の吹き出るような不気味な音が時々聞こえてくる。
軽く鉄を叩いたような音がしたので視線を向けると、眼前に男の背中が映る。歳は自分より遙かに上であるのは明確だったが、部屋にある光の量のせいで姿を把握出来ない。
空気が乾燥しているのだろう、喉に僅かな痛みを感じる。金属をイジる不快な音が止んだ時、唐突に相手が振り向いてきた。
「気付いたようだな。予定外の事態だが……まあ支障はない」
「……?」
「醜い街だ、今のフィオラは。まるで栄光という肉が腐り落ちていく、生きた屍のようだ」
薄汚れた赤い軍服を着た男は、片手をボタンの沢山付いた鉄の板に乗せながら話しかけてくる。窓の外に広がるフィオラの街の一部が崩れていく度に、部屋の中から細かいノイズが効果音に代わって響きわたる。
男は無機質な瞳で少女の顔を眺めている。異様な光景に困惑をしながら、メロンは大きなお辞儀をした。
「あ……あの、こんにちは!!えーーと、私は何故こんなことになっているのでしょうか?なんでぐるぐる巻きさんになっているのでしょうか?あの、あなたは一体……此処は何処で、
!!!」
相手が握っていた金属の棒が頬に当たる。力の限り殴られたメロンは椅子に叩きつけられると、短い鼻息を出した男は添えていた手で鉄の板を叩き始める。
水の吹き出る音に合わせて、フィオラの建物がまた1つ崩れて消え去っていく。砂煙を上げる荒廃の街が悲鳴のような音を出して壊れると、スイッチのような突起物が指で押し込められた。
「似てると思わないか?この街は。未来のこの世界に、そしてあの国に」
「?」
「私は虎の威を借る狐だったろう。だが今は威無き虎に牙を突き立てる。それがかつて、忠義を魂の底から誓っていた相手だとしても……。
”コレ”を見付けた時に、私は虎に換わる事にした。戦乱とあの国により全てが廃れたこの『東世界』を救い掌握する第一歩を、これから見せてやろう」
滲むように受ける圧迫感に、息が苦しくなってくる。固定された右手に痛みを覚えると、周囲の壁の奥から無数の気配を感じる。
泡の吹き出る音が徐々に頻繁になってくる。装置を触っていた男が笑みを浮かべて別のスイッチを押すと、鉄の板から飛び出してきた細長いマイクに口を近づけた。
『親愛なるフィオラの民よ、これより「魔導士」を使用し、通信塔に備えた「装置」に第一段階を施す。これはこの街を救う為の素晴らしいものだ。段階が完了したら、また速報で伝える』
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