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神楽の坂からぼたもち

おはぎとぼたもちの違いは、諸説ある。

どちらも、

もち米やうるち米を蒸すか炊くかして、米粒が残る程度について丸め、餡でくるんだ食べ物

であることはおおむね間違いない。

実体は同じだが、春は《ぼたもち》、秋は《おはぎ》という具合に、季節で呼び方が変わるというのが一般的らしい。

ちなみに、夏は《夜船》、冬は《北窓》という呼び方もあるという。

餅とちがい、ペタペタと音を出さずにつくるので、いついたのか分からない=つきしらず、という言葉遊びが由来だとか。

夜は暗くて船がいつ着いたかわからないし、月は北の窓からはみえない、とのこと。

風流だけど、定着していないのは、ひねりすぎたからだろうか。

ところで「棚からぼたもち」とは、予期せぬ幸運が飛び込んでくることをいう。

つい最近、まさしく「たなぼた」な出来事があった。

気になっていたけれど、なかなか足を運べずにいたおはぎのお店が、向こうから期間限定で近くに来てくれたのだ。

2021年のはじめ頃、神楽坂の路地裏にオープンしたこのお店。

むかしながらの手づくり製法と無添加にこだわりながらも、シンプルで洗練された店構え。

素朴な女の子のお笑いコンビのような店名。

神楽坂は、自宅からはまあまあ遠い。
職場からは、まあまあ近いが、心理的に遠い。

10時から17時まで(売り切れ次第終了)という注釈付きの営業時間が、高いハードルになっていた。

実際、オープン当初は昼過ぎには売り切れていたというし、最近オープンした自由が丘の2号店も、早々に完売していると聞く。

それがどういうわけか、自宅から射程圏内の大型スーパーに催事出店するという情報を得た。

神楽坂からぼたもち。渡りに舟。
いや、この場合は渡りに夜船。

なぜここに、というくらい市外のひとにはマイナーな駅だし、わたし自身も降りたことがない。でもありがたい。

午前中にすっ飛んでいき、竹ワッパに入ったミニおはぎ詰め合わせを購入。

ちゃっかり大福も買った

といいつつ、おはぎは普段あまり食べない。

もち米とあんこの組み合わせは、1個でそれなりに満腹になり、腹持ちもいいので、食べるタイミングがなかなか難しいからだ。

あと、つぶあんの皮が前歯の裏にシンデレラフィットしがち。

だから、このミニサイズセットはうれしい。

もちろん、通常サイズのおはぎも単品売りしているが、せっかくなら色々な味を楽しみたい。

持ち帰り方が雑で、妙な空間が発生

ミニおはぎの名のとおり、ピンポン玉サイズのコロンとしたおはぎ。

この日の詰め合わせは、きなこ、つぶあん、黒ごま、豆隠れ、こしあん、ほうじ茶。

白・黒・茶と彩度は低めなのに、このうるわしさたるや。

まるい入れ物に花弁のごとく詰め合わさっていると、それだけで期待感がふくらむ。
この詰め合わせは手みやげにもいい。

栞に描かれている、すこし困った表情のおじさんもあじわい深い。

ホームページに小さな赤文字で書かれている、

「全部手作りなので、たくさん作れません。売り切れちゃったらごめんね」

というセリフをつぶやいていそうだ。

きなことほうじ茶

いくらかわいくても、相手はもち米とあんこのかたまりなのよ?と思いつつ、きなことほうじ茶をいただいた。

ほうじ茶の断面

切ってから思ったのだが、おはぎはあまり断面映えしない。

あと、親指と人差し指で軽くつまめるほどの小さなおはぎだから、切らなくてもひとくちでいけた。

もち米の粒感がしっかり残っていて、口の中に和の風味が広がる。

きなこの甘みのあとに、これまで食べたおはぎでは感じたことのない、爽快感のある風味を感じた。

はじめは気のせいかと思ったが、ほうじ茶も、香ばしい茶葉の香りのあとに同じ風味を感じた。

すぐには思い出せないが、よく知っている味。

この風味が、甘みをやわらかくして、さらにそのやわらかな甘みを引き立てている。全体の味もキュッとひきしまる。

たぶん、シソだ。

対面での詰め合わせ販売ゆえ、裏面表示がないから確証はもてない。

でもたしか、前に店主がテレビ取材を受けていたときに、シソを隠し味に使っていると言っていたような気がする。

伝統と、進取の気性のバランスがほどよいおはぎだった。

神楽坂本店で販売しているという、みずもちも気になる。

神楽の坂からぼたもち、を味わえたので、今度はこちらから神楽の坂にみずもち、を求めに行かなければ。

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