犬派?猫派?展をみた
展覧会タイトルとチラシを見て、これは行かねばならぬと思い、さっそく足を運んだ。
争うつもりはまったくないが、どちらかに所属せよと言われたら、犬(ときどき鳥)組である。
山種美術館は、1966年に開館した日本初の日本画専門の美術館。
恵比寿駅から徒歩10分、オフィスビルや飲食店が並ぶエリアを抜けると、昭和のおもかげを残す食料品店がぽつんと佇む。
その食料品店のわきに置かれた、色あせたビールケースに、なにやら文字が。
洗濯ばさみで留められた、手製の道案内。
駅からほぼまっすぐだが、約850メートルあるので、そろそろ「まだ?道合ってるよね?」と不安になる頃ではある。
食料品店の店主、よっぽど道を訊かれたんだろうか。
ここから、15メートルならぬ約15秒で、美術館に到着。
アプローチなしでいきなり入り口があるため、徒歩で初めて来るひとは通り過ぎてしまうのかもしれない。
この写真の左側はガラス張りで、作品や企画展にちなんだ和菓子がいただけるカフェスペースが広がっている。
展示室は地下なので、電波は入らない。
しばし、さわがしい現実とはお別れだ(美術館のWi-Fiは飛んでいる)。
わかりやすく、馴染みのあるテーマだからだろうか。学生っぽいひともちらほら。
江戸時代の俵屋宗達、長沢芦雪から、明治以降の竹内栖鳳、藤田嗣治、現在も活躍中の山口晃まで、犬と猫を題材にした作品が並ぶ。
「第1章 ワンダフルな犬」は28作品、「第2章 にゃんともかわいい猫」は24作品。
猫ブームのまっただ中、犬組やや多めだ。
キャプションの右上に、小さな犬猫のシルエットが付いているのがかわいい。
ところで、現代アートを扱う美術館や芸術祭では、作品の撮影やSNSへのアップロード可能なところが増えている。
山種美術館も、キービジュアルの長沢芦雪『菊花子犬図』と、竹内栖鳳『斑猫』はスマホに限り撮影可能だ。
SNSで拡散されることで「実際に観たい」「自分も撮りたい」となり、集客につながるのは火を見るより明らか。
ぶあつい図録より、スマホの写真フォルダに好きな作品だけ収めた方が、あとで見返しやすいのも確か。
でも、小さな美術館だと、靴音以上にシャッター音や電子音が響く。
自分好みの画角で撮ろうとするあまり、順番待ちや、作品を近くで見たいひととの間に、無言の攻防が発生。
そもそも、作品を観に行ったのに、“自分の作品(=いい感じの写真)”を生み出すことに夢中になってしまいがち。
“それ”の体験を目的とする現代アートや野外作品、四方から鑑賞可能な立体作品ならまだしも、こういう静かな場所の画だと、ちょっと気が引けた。
まずはおのれの眼にしっかり写しとりたいなと思った。
日本画特有の淡く穏やかな色合いや、たらし込み技法のにじんだ感じが、モフモフのやわらかな毛並みを筆致と質感で伝える。
犬作品はころころむくむくな子犬を描いたものが多く、タイトルもそのまま『子犬図』『狗子図』『仔犬』『戌』。漢字はいろいろでも、キャプションの英訳はほぼ『puppies』。
展示作品の制作年は、江戸時代(17世紀)からはじまり、平成16年(2004年)で止まっている。
いっぽう、猫作品は気品高い成猫を描いたものが多く、タイトルは『流行猫の曲手まり』『翠苔緑芝』『珊瑚の風』とさまざま。
展示作品の制作年は、天保12年(1841年)からはじまり、最新のものはなんと令和5年(2023年)だ。
近年、猫の人気が高まっている。飼育数は、猫が犬を大きく上回りはじめた。
日本画における犬猫モチーフも、時代の流れを反映しているのだろうか。
犬は犬そのものの愛らしさに、猫は景色に溶け込む自然さに、とフォーカスされる部分が異なっていたのもおもしろい。
数年後に同じテーマで開催したら、猫作品のほうが圧倒的に増えているかもしれない。
1時間強で見終わり、そういえば犬と戌と狗ってなにがちがうの、と思いGoogleで調べようとしたら。
なんだろう、この肉球。
しばらく考えていたら、白いおててがにゅっ。
人間も押してみよう。
なんか見えた気がしたし、なんか鳴いた気がしたが、一瞬で引っ込んでしまい、そこに足跡だけが残った。
もう一度押してみる。
画面を押すたび、ワンッ!という鳴き声とともに犬の前足がにゅっとのびてきて、足跡を残していく。
しかも、毎回犬種がちがう。
連打すると、犬が円陣を組んでいるようにみえる。
右下に表示されている「×」を押すと、上から水が流れてきて、足跡をジャーッと洗い流していく。芸が細かいな。
2022年頃に登場した、Googleの隠しコマンドらしい。知らなかった。
猫でも同じ現象が起こった。
ちなみに、ミュージアムショップをはさんだ第2会場の小部屋では、「トリは花鳥画」と称し、上村松重の『白孔雀』や横山大観の『木菟』を展示している。
学芸員さんが楽しんで企画した感じが伝わってきて、にやにやしてしまった。
Googleのかわいい隠しコマンドも偶然発見できたし、犬(ときどき鳥)組、大満足。