しょうゆとアーモンド
なんにでもしょうゆ、はもはや慣用句と言っていいかもしれない。
意味は「万人には理解しがたいこと」「作り手を虚無にすること」といったところか。
しょうゆは有能な調味料のひとつだと思う。
ただ、丁寧にだしをとったり、味付けにこだわった料理に手加減なしでしょうゆをかけられたら、諸行無常の響きが聞こえてくる気がする。
作り手への敬意は最低限払いたいものだし、カレーにしょうゆはどうしても解せない。
体内塩分濃度、ウユニ塩湖にならないのだろうか。
と言いながら、わたしも深煎りごまドレッシングを何にでもかけがちだ。
サラダはもちろん、温野菜、冷ややっこ、目玉焼き、プレーンオムレツ、焼いただけの肉、餃子、春巻き。
そもそもこのドレッシングの味が好きである。
醸造酢としいたけエキスと卵黄が効いているのか、香ばしくコク深くなめらか。
ストックがないと不安になるくらいだった。
――知人の紹介で、これに出会うまでは。
サクサクしょうゆアーモンド。
包みからごろりと出てきたそれをみて、やつぎばやにクエスチョンマークが飛んだ。
しょうゆなの?アーモンドなの?かたいの?やわらかいの?しょっぱいの?あまいの?香ばしいの?どうやって食べるの?何に合うの?セクシーなの?キュートなの?どっちが好きなの?
途中から松浦亜弥さんの曲にすり替わってしまった。タイトルが思い出せない。
ひとまず、贈り主はセンスと目利きが確かだ。
2011年の春には、いろいろ品不足になった東日本を気遣ってか、滋賀の知人の田んぼで取れたという米を送ってくれた。
あれは本当にありがたかった。
サクサクしょうゆアーモンドのホームページにはこう書いてある。
格段にグレードアップ、リピーター続出、栄養豊富、やみつき、様々な料理に使える、グレードアップ。
自信に満ちあふれた言葉が、これでもかとたたみかけてくる。
おそるおそる瓶を開けてみると、オイル漬けのきざみアーモンドのようにみえた。
見た目にしょうゆ要素は一切なく、味の想像がいまいちつかない。
とりあえず、アスパラガスとブロッコリーとトマトのサラダにかけてみる。
いつもなら深煎りごまドレッシングをたぷたぷとかけるところだが、ぐっとこらえた。
たしかに見た目はグレードアップ。
彩りがより鮮やかになって花束のようだし、野菜どうしの隙間が埋まり、ボリュームもアップしている。
味は、自信満々の商品説明にいつわりなし。
調子にのってかけすぎたと思ったが、もろみベースだからなのか、ほどよくまろやかな塩味。
しょうゆというより、だしや塩だれに近いような気がした。アスパラはじめ、野菜本来の味が活きている。
フライドオニオン&ガーリックの香ばしさのおかげで、味に深みも加わった。
とにかく食感がいい。
アーモンドの粒が細かいため、たしかにカリカリコリコリというよりは、サクサクシャクシャクしている。
ナッツ特有の歯ごたえもちゃんと残っているので、やわらかい茹で野菜と一緒に食べると食感も豊かだ。
あっという間に一瓶使い切ってしまい、先日自分で買い足した。
豆腐、ホタテ、鶏むね肉、餃子、いまのところなんでもいける。
なんにでもしょうゆアーモンド、を慣用句にするなら、意味は「損はさせない」「相乗効果」だろうか。
素材自体も、料理も、食べる人も。
深煎りごまドレッシングが、冷蔵庫から「ね~え?」と気を引きたそうにこちらをみている。
忘れたわけではない。