クランペットと和菓子
新札が発行されてしばらく経つが、手元にあるのはまだ旧札ばかり。
ほぼキャッシュレス決済なので、ぜんぜん循環しない。
ところで、先日訪れた仙台の和菓子屋《まめいち》は、毎月テーマに合わせた創作和菓子を出しているという。
9月のテーマは「新札発行」。
季節だけでなく、世相も感じられる和菓子、あたらしい。
新札そのものより先に、新札モチーフの和菓子を手に入れた。
1000円(モチーフ)の和菓子と、10000円(モチーフ)の和菓子を購入。
実際のお値段は、一般的な和菓子+αである。
新1,000円札の肖像は、近代日本医学の父、北里柴三郎。
ちょっとしたことでカチンときて雷を落とすので、あだ名はドイツ語で雷を意味する「ドンネル」だったとか。
そんな偉大なる雷おやじをイメージした和菓子がこちら。
斜め読みしたら、一瞬、稲妻の光のように佐藤竹善さんが浮かび上がって、ちょっとシングライクトーキングした。
それはさておき、竹炭が混じった白あんは不穏な雨空の色だし、乃し梅錦玉羹はぴかぴかの稲光。
乃し梅といえば、先日山形物産展で出会ったヴェリーヌでその存在と歴史を知った。こんなかたちで再会するとは。
土台部分は大粒のつぶあんの食感がしっかり残っていて、あっさりした甘さ。乃し梅シロップの和の酸味とのバランスがいい。
つづいて、新10,000円札の肖像は良くも悪くもすごい実業家、渋沢栄一。
大学芋と茄子の味噌汁が大好物だったらしい。
天面に散りばめられた甘露煮の皮の紅色と、黒ごまの彩り、ツヤツヤの照りがまんま大学芋。
誰がどう見ても芋!な見た目どおり、芋のホクホクした甘みが広がる。つるんとしていて、歯切れもよく食べやすい。
原材料にしょう油が使われているからか、ほんのりみたらしの風味も感じた。
新札より先に、はじめて手に入れたものがあとひとつ。
まめいちさんから徒歩圏内にある、《菓子時間ムギ》さんでは、クランペットというお菓子に出会った。
名前からは、金管楽器か、掃除用品を連想してしまう。
曲線状に響く高音を鳴らしたり、もっちり泡ですみずみまできれいにできたりしそう。
見た目は、何の変哲もない、焼いたなにか。
というか、変哲がなさ過ぎる。すこしくらい変哲があってもいい。
変哲、どこに行ったの、戻っておいで、怒ってないから。
見た目はパンケーキに似ているが、パンケーキがベーキングパウダーを使うのに対し、クランペットはドライイーストを使って発酵させるという違いがある。
そのため、表面がすこしポツポツしているのだ。
中にはなにも入っていないらしい。
トースターですこし温めて、別添のハチミツとバターをかける。
2パックが連結していて、真ん中で折ると同時にプチュッと出てくる、あれが付いてきた。
あれの「いつ出るか分からない感」が不得手で、おそるおそるやったらバターがマヨネーズめいてしまった。
食べれば、パンケーキとは別物だと分かる。みっちりもっちもちである。
パンケーキよりすこし甘さ控えめで、小麦の風味が強い。
そこに、バターとハチミツがとろりと溶ける。カレーのCM文句みたいになってしまった。
発祥と言われるイギリスでは国民食だそうで、軽食としてよく食べられるらしい。
軽食どころか、かなり腹持ちがよさそう。
こちらでは、看板商品のマフィンも購入した。
温めると、小麦の香りがふわり。
整っているのに無骨な感じが、ひとつひとつ丁寧に作っている印象を受ける。
くるみのゴロゴロ感、安納芋のヤマブキ色が、秋を全力でアピールしてくる。
マフィン本体の焼き色も含めて、全部褐色なのに、いや褐色だからこそ、ほおばりたくなるグラデーション。
ふかふかほろほろのマフィンを、安納芋のねっとりなめらかペーストがまとめ上げてくれる。
そこに、たっぷりのくるみがスタッカートのように弾けていく。
持ち帰り時間の都合で諦めたが、果物やクリームをつかったマフィンもぜひ食べてみたかった。
まめいちも菓子時間ムギも、全部キャッシュレス決済で済ませている。
わたしの手元に新札がやってくるのはまだ先になりそうだ。