![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/158649829/rectangle_large_type_2_9195f70f45ad954de253c6542387eeec.jpeg?width=1200)
うまみ飴をポケットに
新入社員のころ、味覚官能検査で苦味が判別できなかった。
品質保証部長に「そういうひとはねェ、毒を食べてしぬよォ」と笑顔で言われた場面は、たぶん走馬灯にでてくる。
こどもの頃、うっかり錠剤をかみ砕いてしまい、それより苦いものなんて今のところないから、仕方ない。
――味オンチじゃない。
味噌汁にだしを入れ忘れたかどうかはすぐにわかる。絶対にわかる。
どんなに味噌を入れたって、だしを入れ忘れた味噌汁は、なんだか平面的な味。
人生の最後に食べたいものは味噌汁。
欲を言えば豚汁。あとタコのから揚げ。だし巻き卵。塩むすび。文旦。
うま味には敏感だ。
グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、ありがとさん。
敏感だから、見つけてしまった。
![](https://assets.st-note.com/img/1729254470-VBXv8YbcGLHhsPFawx17gite.jpg?width=1200)
その名も、うまみ飴。
ウマミアメ。ドラえもんの四次元ポケットから出てきそうな名だ。
これはどんなものもおいしくなるひみつ道具ではなく、《榮太樓總本鋪》の榮太樓飴と、鰹節専門店《にんべん》の金色の鰹だしが手を取り合った、飴。
2024年10月から、一年間の限定販売だという。上品な金色のパッケージがまばゆい。
榮太郎飴といえば、1818年創業で日本橋に本店を構える老舗和菓子屋、榮太樓總本鋪の代表的な商品である。
いっぽう、つゆの素やだしが有名なにんべんは、1699年創業で同じく日本橋に本社を構える水産加工メーカー。
何百年もの歴史を歩んできたご近所さんどうしが組むとは、粋にもほどがあろう、あたぼうよ。
![](https://assets.st-note.com/img/1729254470-jZPM4HbgncUW5VEemSDlCFIs.jpg?width=1200)
原材料はいたってシンプル。ほんとうにだしが入っている。
有平糖は、砂糖に少量の水飴をくわえて煮詰めた飴のことだ。
一般的な飴は砂糖と水飴の量が半々なのに対し、有平糖は砂糖の分量が多いという。
榮太郎の「梅ぼ志飴」をはじめて食べたとき、こどもの頃によく作ったべっこう飴を思い出して、なつかしくなった。
梅ぼ志といえど、梅は入っていない。
黄色と赤色の飴が入っているけれど、どちらも同じ味。
まるみを帯びた三角錐のかたちが、つまんだ梅干しのようだから、というのが名前の由来だそうだ。
べっこう飴よりも口あたりや甘みがやさしくて、噛んでもサクサクしていて歯にくっつきにくいので食べやすい。
![](https://assets.st-note.com/img/1729254470-BnvpXHSlN5yrAK34xQCbMwIo.jpg?width=1200)
梅ぼ志飴よりも、すこし濃い色合い。
ほんのり顆粒だしのつぶつぶが見えるところや、表面の細かいヒビが、リアルな琥珀っぽい。
まさに、金色のダシの色。着色料は使われていないのに、この琥珀のかがやき。
塩飴のような、塩味の強いパンチのある飴を想像して口に放り込んだら、ちがった。
最初は、よく知っている梅ぼ志飴の味。円熟したべっこう飴の風味が、じんわりと広がる。
第一印象は、ちゃんと甘い。
おやおや?と思いながらなめていると、ゆっくりと鰹だしの風味が染み出してきて、たちまち味が立体的になる。
「本日のお料理、満足いただけましたでしょうか」と渋い料理長がうやうやしく出てくる感じ。
そんなお店行ったことないけど。
塩味ではないし、甘塩っぱいとも異なる。これは、DNAレベルで記憶に刻み込まれているうま味である。
全面に主張してくるわけではなく、ほんのりと奥深く、甘味をアシストするように広がる、上品なだしの味。
あまうまい。
べっこう飴のなつかしさと、だしの安心感が、染みるではないか。
![](https://assets.st-note.com/img/1729254471-uDwZC5aR8TOYfdjGQr6qSEKF.jpg?width=1200)
夕暮れ時、郷愁にひたりながら味わいたい飴である。三次元ポケットに忍ばせておきたい。
うま味はわかる人間でよかった。うま味を食べて生き続けたい。
わたしの走馬灯には、食べものしか出てこない気がする。