映画『地中海殺人事件』(1982)紺碧の海をコール・ポーターで
こんばんわ、唐崎夜雨です。
これまで夜雨の名画座では、アガサ・クリスティのミステリーを映画化した『オリエント急行殺人事件』(1974)、『ナイル殺人事件』(1978)をみてきましたが、今回はそれに続く作品『地中海殺人事件』(1982)です。謎を解きあかすのはもちろん名探偵エルキュール・ポワロ。
『ナイル殺人事件』と『地中海殺人事件』の間に、アガサ・クリスティーが生んだもうひとりの名探偵ミス・マープルが登場する『鏡は横にひび割れて』が同じプロデューサーによって映画化(邦題『クリスタル殺人事件』)されていますが、そちらはまたの機会にご紹介。
『地中海殺人事件』の原作およびオリジナルのタイトルは『白昼の悪魔(Evil Under The Sun)』。白昼太陽の照りつける下にも悪魔はいる。
原作『白昼の悪魔』は1941年に刊行。昭和16年のこと。
昭和16年は12月に真珠湾攻撃によりアメリカやイギリスが対日宣戦布告した年。原作では事件の舞台となる島はアドリア海ではなく英国南東部でした。英国内ではこれほど明るい雰囲気はでないかも。
監督はガイ・ハミルトン。『007ゴールドフィンガー』などジェームズ・ボンドを4作品監督している。過日みました『空軍大戦略』も監督しています。
あらすじ~すべての容疑者にアリバイがある
保険会社から模造宝石の調査を依頼された名探偵エルキュール・ポワロ(ピーター・ユスティノフ)は、宝石の所有者であるホレス卿に南フランスで会う。ホレス卿は女優アリーナに結婚を前提にして宝石を与えたが、女優は別の男と一緒になったので、怒ったホレス卿は女優に宝石を返させた。
そこでホレス卿とポワロは模造宝石の参考人としてアリーナ(ダイアナ・リグ)に会うため、彼女が滞在するアドリア海のホテルへ向かう。
ダフネ(マギー・スミス)の経営するホテルには演劇プロデューサーのガードナー夫妻、演劇評論家のブルースター、教師のレッドファンとその妻クリスティン、それとアリーナとその夫である実業家のマーシャルたちが滞在していた。
ところが肝心のホレス卿の到着が1日遅れてしまい、ポワロは彼の到着を待つことになるが、アリーナは何者かに殺されてしまう。
容疑者はホテルに宿泊している人々。しかし容疑者のすべてにアリバイがあった。
魅力的なキャストがホテルに集う
『オリエント…』『ナイル…』に比べるとキャストはややパンチ不足にみえますが、名優揃いで前2作に負けず劣らぬエルキュール・ポワロの推理が楽しめる作品になっています。
エルキュール・ポワロ役を『ナイル殺人事件』に引き続いてピーター・ユスティノフが演じている。ここでは鋭い灰色の脳細胞の持ち主という印象ではなく、人生経験豊富な好々爺風。ややオチャメ。
オリエント急行は冬景色で寒そう、ナイルは砂漠で暑そう。今回は孤島のリゾート地らしく明るく開放的な雰囲気。ミステリーだけどどこか陽気な感じのする映画になっています。
舞台となる風光明媚な地中海の島がとても素敵です。実際のロケ地はスペインのマヨルカ島らしい。
『オリエント急行…』に出演していたコリン・ブレイクリー、デニス・クイリー、『ナイル…』に出演していたマギー・スミス、ジェーン・バーキンが役柄を変えて出演しているのは、シリーズを意識してのことでしょう。こうゆうのは市川崑監督の金田一シリーズでも見受けられる。
殺されてしまう女優マーシャルを演じているのがダイアナ・リグ。『女王陛下の007』でボンド・ガールでした。彼女は2020年に亡くなるのですが、その後に公開された『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』ではお元気な姿を見ることが出来ます。
ジェーン・バーキンも昨年訃報が伝えられました。ここでは、夫が女優と浮気しているかもしれない可哀想な奥さん。日焼けNGで、高所恐怖症で、虚弱そうな女性を魅力的に演じている。
コール・ポーターの音楽が流れるミステリー
映画『地中海殺人事件』をより楽しいものにしているのが、コール・ポーターの音楽です。
オリジナルそのままではなくアレンジが効いてますが、全編に流れるコール・ポーターがとても印象的な作品になっています。劇中でもダイアナ・リグが『You`re The Top』の歌を披露してくれます。
映画としての時代設定は定かではないが。原作が出版された1941年よりは数年前のことでしょう。おそらく1930年代、コール・ポーターの活躍した時代。
考えてみれば、1939年にイギリスはドイツに宣戦布告。
1940年にダンケルクの撤退があり、40年から41年にかけてドイツ空軍によるロンドン空襲もある。このあたりは最近見た映画で学んだ次第。
こうなってくると地中海へバカンスに行ける状況にはなさそうです。
地中海に和傘
ホテルの女主人役のマギー・スミスや、宿泊客のジェーン・バーキンが日傘がわりに和傘を用いているのも興味深かった。これが不思議と違和感なく合うんです。
前作『ナイル殺人事件』でも、たしかベティ・デイヴィスが和傘を使っていた。
西洋のドラマの中に日本的なものがうまく収まっていると嬉しい。
ダイアナ・リグが被る赤い帽子も中国風だかベトナム風で、この時代にオリエンタルなデザインは意外と合うようですね。
物語の舞台であるこのホテルは当時の有名人も宿泊していることになっています。ここの宿帳には、フレッド・アステアやコール・ポーターのサインがあります。
なかなか心憎いことをしてくれます。
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