中島敦著(2022)『山月記【現代語訳版】名作現代語訳』Kindle
人生の優先順位を考える上で良い作品
ある人が新潮文庫の『李徴・山月記』を紹介していたので、とりあえずkindle unlimitedを利用して同じ題名のkindle版をポチッと利用してみました。本書は原書として1942年の同著者の『山月記』を基にした現代語訳となっている。
文庫本のように複数の短編がまとめられているわけではなく、このkindle版は山月記だけの短編一つの作品であり、直ぐに読み終えることができるだろう…
あらすじは、李徴という優秀な主人公が、自分よりも劣る上司に仕えることに我慢ができずに、役人を辞め、詩人として名声を博そうと思うが、これに苦戦し、結果的に詩も評価されず、生活も苦しくなってしまう。
そこで、再度地方役人になったものの、かつて自分より出来の悪かった者たちが立身出世をしている現実にも耐えられず、結果的に姿を消してしまう。
その後、ある山野には夜になると虎が出没し、夜に旅を急いでそこを通過する者たちは、その虎の餌食になってしまうという噂が人々に知れ渡っていた。
そこに役人一行が訪れ、夜を待たず出発し、そこで虎と遭遇した…
その虎は危ないところだったと自戒し呟いたが、その声を役人はかつての友人の李徴だと理解する。
李徴は、一日の僅かな時間は人間の意思に戻るが、多くは虎として生きていた…
段々と本当の虎になっていくにつれ、人間としての意志が働く時間も短くなっていくことを嘆き、これまでの自分の考えや行動を振り返り嘆き哀しむ、そんな内容である。
どのようなことで嘆き哀しんだのかは、一度読んでみて感じ入って欲しい。
話としては奇っ怪ではあるものの、現代人の考え方にも通じる面があり、李徴を通じて自分の生き方を考える機会になるだろう…
ずっと著者名と題名は忘却していたが、小さい頃にこの山月記のあらすじは何かで知っていたような気がする。学校の教科書なのか、はたまたNHKの人形劇だったのか、それとも読み聞かせや朗読だったのか、内容だけは詳細まで覚えていた感じで、読んでいる最中に「この話は知っている」と感じた次第。
人間というのは、日々の何気ない行動であっても、その都度意思決定をしている。その小さな意思決定の積み重ねが今の自分を作っているのであり、人々の僅かに小さな心根の違いが、その後の人生に大きな差となって現れていくものである。そのことが、この短編で十分学習できるのではないかと思う。
たまには人のおすすめの本を素直に読んでみることも必要だと思った読後であった。ありがとう。