池田純著(2016)『しがみつかない理由』株式会社ポプラ社
潔さという気持ちよさ
本を買うものの、読まずに積読状態にしていたものを、本棚の整理で軽く読めそうなものをチョイスし、読んでいる。
今日は1ヶ月に1度の病院外来のため、検査と検査の間の待ち時間が長いため、この本を選んだ。
本書は最年少で横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任し、これまでの赤字運営を5年で黒字化させた功績のある人の経験談となっている。
大学を卒業し、住友商事や博報堂、その後独立してのDeNAなど、その経歴もなかなかに面白い。私自身も早期定年退職で転職したが、一度転職すると、その組織独特の企業文化や考え方の違いなど、なぜこのように考えるのかといった視点で見ると、色々と勉強になることも多い。きっと著者は早期に転職を経験しているので、その辺の自分自身での比較から感じ取った違いというものを意識していたのではないかと思う。
そうだからこそ「プロがいるからといって、何もかも任せっきり、自分は何もしらなくていいということはありえない」(p.85)など、物事を他人に丸投げせず、自身が責任を持って事に当たるという基本を忘れていないことがうかがえる。
また「『本物』にこだわらないと、偽物は必ず見抜かれる」(p.110)も、全くその通りで、いわゆる手抜きというものは、人知れずバレてしまうことを熟知されているように思う。
本書でわたしが感動したのは、ジーコから聞いたという「プロとはクオリティ」(p.122)ということ。単に戦術含め普通に戦うだけでなく、そこに他よりも一歩抜きん出たクオリティを持つこと。これがプロの仕事。確かにそのものズバリの言葉である。この一言が書かれてあるだけでも、本書を読んで良かったと思う次第。
それが「ただ、リーダーとして、トータルでの仕事のクオリティを落とすわけには行かない」、それが「好かれるマネジメントは、組織を弱くする」ことに繋がることになると解く(p.136-137)。
そして「業界の中で誰かをベンチマークに置くのではなく、自分がベンチマークになる意識」(p.157)となり、自分を律することに繋がっているために、自分で冷静に辞めるという意思決定もできるのだと感じた。本当に見事な采配である。
さて、わたし自身も最近、情報セキュリティを担うCSIRTという組織で組織全体を統括しているが、上司と課長が結託して自分の組織のインシデントだけ隠蔽していたことを知り、これでは二重基準であり、とても組織全体の統制ができないので、この組織に見切りをつけ退職することとした。ある大きな地方自治体だけに、公務員は公僕でもなければ誠実でもなく、ただの極悪人だったようだ…
ということで、わたし自身もしがみつかない別の理由で潔く辞めた。
自分自身で意思決定するのは、やはり自分の人生がかかっているので難しい決断でもある。しかし、物事の本質に向き合い、自分を律することができれば、順調な時期であっても適切に辞めるという決断ができるというもの。
自分自身を信じ、自分の可能性をもっと高いところに求めるからこそ、そこに「しがみつかない理由」があるのだと感じた。
久しぶりに爽快な読後感だった。そして今の自分も無職になることが、こんなに怖くないことだと感じている。きっと真っ当に生きていれば、未来は明るい方向に流れていくものだと、漠然とした思いで満たされている。
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