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【超短編】透明な自由

都市の喧騒が消えた夜、僕は自分の影が歩道から剥がれ落ちるのを見た。

最初は気づかなかった。いつもと変わらない帰り道、ただ少し足取りが軽くなった気がしただけだ。でも、街灯の下を通り過ぎた時、異変に気がついた。影が僕の後ろをついてこない。

振り返ると、影は歩道にへばりついたまま、困惑したように身動ぎもせずにいた。僕は立ち止まり、影に近づいてみた。影は僕の動きに合わせて形を変えるどころか、まるで別の生き物のように蠢いている。

「おい、何してるんだ?」

僕は影に話しかけた。すると影はゆっくりと立ち上がり、二次元の平面から這い出してきた。まるで黒いインクの塊が人型に固まったかのようだ。

「自由になりたかったんだ」影は声にならない声で答えた。

「でも、お前は僕の一部じゃないか」

「そうかもしれない。でも、いつも君の後ろばかりにいるのは退屈だったんだ」

影は歩き出した。その姿は僕とそっくりだが、どこか違和感がある。まるで鏡に映った自分が勝手に動き出したような感覚だ。

「待ってくれ」僕は影を追いかけた。「お前がいなくなったら、僕はどうなるんだ?」

影は振り返り、にやりと笑った。「君も自由になれるさ」

そう言うと、影は街の闇に溶けていった。僕はその場に立ち尽くしたまま、自分の足元を見つめた。そこには何も映っていない。

風が吹き、僕の体が少し揺れた。そして気がついた。体が透明になりつつあることに。

僕は笑った。そうか、これが自由なのか。

街灯が明滅する中、僕の姿はゆっくりと消えていった。最後に残ったのは、どこか懐かしい微笑みだけ。

そして、新しい夜が始まった。

(画像:DALL-E-3)

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