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鳶に油揚げをお持ちいただく ❮食のことわざ②❯
ゴールデンウィークも終わってしまいました。この調子ならあっという間に上半期が終わりそうです。昔はゴールデンウィークだ! 夏休みだ! と、はしゃいだものですが、いつの間にか満開の桜にも、波打ち際の眩しさにも、胸がときめかなくなりました。今はただ若いときにポケットからこぼれ落ちた、ほんの少しのキラキラしたものを拾い集めているような有り様です … なんてね。
今週は「食のことわざ」の二回目です。
同じ釜のめしを食う
同じ団体に所属して、色々な苦労を共にし、 親しい間がらになったことを「同じ釜の飯を食った」と言います。一つの釜で炊いたごはんを分け合って食べることからできたことわざですが、現代日本では死語になっています。このことわざのような状況は、現在ではスポーツの合宿あるいは塾の合宿でしかありえないと言ってもいいでしょう。それであっても、近頃は各々の体調や嗜好に配慮し、管理栄養士さんが作成した個別メニューである場合が多いようです。全員が否応なしに同じメニューなんてメシハラと言われかねない時代です。
ところで、皆さんは釜を見たことがありますか? 釜と鍋の違いを説明できますか?
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絵を見れば分かりますが、釜と鍋は深さが違います。また、釜には羽根とよばれる縁がついています。そのおかげで羽根から下は竈(かまど)にすっぽりと収まるので、底面だけではなく側面からも熱が伝わる仕組みです。その仕組みと重い木製の蓋のおかげで適度な圧力がかかり、おいしいご飯が炊けます。
現代では釜でご飯を炊いているのは一部の飲食店だけだと言っても過言ではありません。将来的にはこのことわざも消滅すると思われるので、今のうちに「同じ🐘印の炊飯器の飯を食う」いや、「同じや○い軒のめしを食う」に変えてしまいましょうか。
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鳶に油揚げをさらわれる
このことわざをネットで検索してみると、「当然自分が手に入れるはずのものを、思いがけず横あいから奪われ、呆然とすること」「自分の大切にしていたものが不意に横から奪われ、呆然とする様子のこと」などと説明されていて、トンビが悪者扱いですが、筆者は少し違うと思います。
ところで、ことわざになるぐらいですから、トンビが油揚げを持ち去るところが度々目撃されたはずです。しかし、そんな特殊な場面を頻繁に目にすることがあるでしょうか。そんなことが日常的にあるシチュエーション… ひょっとして… 思い当たることがありました。
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稲荷信仰とトンビ
江戸時代中期に、大名屋敷に祠とキツネの像を設け、屋敷神として稲荷神をお祀りするのが流行しました。やがてそれが江戸の庶民の間でも流行し、豊作や商売の神、地域の氏神として稲荷神の祠とキツネ像が町々に設けられるようになります。その結果、あちこちに設けられた祠に人々が油揚げをお供えするようになります。そこでトンビの出番です。
トンビは鷹の仲間ですが、他の鷹と違って生きた獲物を積極的に狙わず、小動物の死骸や残飯を探して食べるスカベンジャー(腐肉食動物)です。そんなトンビにとって、稲荷社に置かれている油揚げは恰好の獲物だったのです。
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伏見稲荷のきつねは稲穂・巻物・御霊・鍵をくわえています
※くわえている物は神社によって違います
稲荷神社のシステム
人が稲荷の神様に願いごとをし、油あげをお供えします。神様が願いをお聞き届け下さり、その代わりに油あげをお召し上がりになります。その際、稲荷のキツネは口に大切なお宝をくわえて護っているので、油あげの回収はスカベンジャーのトンビにお命じになる。という流れになります。
稲荷神社や祠の前にでも、この一連のシステムが掲示されていれば「トンビに油あげをさらわれた!」なんて誤解は生じなかったと思います。
このことから、「鳶に油揚げをさらわれる」のではなく、「鳶に油揚げをお持ちいただく」が正しいと筆者は妄想します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。蛇足ではありますが、筆者の好きな食のことわざは
「胃の中のおかず大腸を知らず」です。