かぜ回復期の栄養補給に塩きなこクッキー(卵・バター不使用)と、桐島洋子さんの食エッセイ
先日の風邪は、熱や喉の痛みといった目立つ症状は割とすぐ治まったものの、食欲や胃腸の機能が戻るまでにずるずると2週間ほどかかった。食欲自体はあるのに普段の好物が嫌になったり、おそらくは消化できないために気持ち悪く感じたりし、食べられるものと量が共に限定された。
普段は好きな茸類、特に椎茸やえのきで気分が悪くなり、バターの匂いや鮭を焼く匂い等も一切駄目。魚貝や肉類全般は食べられず、中でも牡蠣は見ただけで駄目だった。本来好物だったはずなのに、治った今でも何故か食べたくない。牡蠣に含まれる何らかの成分が嫌なのだろうか。
また、普段は和食より消化に優しいと感じているイタリア料理が、ごく薄味のミネストローネでさえも食べたい気になれなかった。オリーブオイルが嫌なのではなく、やはりこういう時には幼い頃から食べ慣れた食材や調理法を求めるもののようだ。
そんな具合だったので、食事はうどんや柔らかめのごはんに梅干し、柔らかく煮た大根や里芋の味噌汁、ほろほろに煮たカリフラワーのスープなど。少しでも体力を戻したくてたんぱく源として積極的に食べたのは豆腐と卵で、少量なら鯖の水煮缶も大丈夫だったので、大根おろしと梅干しで煮て何度か食べた。
バター以外の乳製品も特に嫌ではなかったけれど、冷たいヨーグルトは身体を冷やす気がして、温めた牛乳でココアをつくり、毎朝朝食として飲んだ。朝からこんなに甘い飲み物なんて普段の私には考えられないのだが、この期間に限っては身体が要求していた。ホットカルピスも恋しかった。
体力を戻す回復期には、普段よりも甘いものが食べたくなる。食べる量や種類が足りない分を、素早くエネルギーになる糖質で補おうとしているのだろう。と言ってもバターたっぷりの焼き菓子は無理だし、アイスクリームもおなかを冷やす。普段あんなに好きなあんこにも、消化が重そうでどうも手が伸びない。チョコレートも無理そうだ。ならば私の食べたい、食べられる「甘いもの」とは…?
しばし考えた後、台所へ移動して30分後にはこれが完成していた。
バターと卵を使わないきな粉の塩クッキー。
これが今回の回復期には非常に役立った。食事の量を摂れない分、ちょっとおなかが空いたような時に1〜2枚食べると満足感があり、かつたんぱく質も摂れて身体に力が与えられた感じがした。きな粉優秀。
元々きな粉は好きで常備しているので、クッキーにしたら美味しそうとは前々から思っていた。バター不使用と言っても、バターの風味を避けたかっただけでノンオイルではない。油脂もある程度は身体に必要だし、今回は栄養補給が目的なので、クッキーとして美味しくつくりたかった。私好みに香ばしく、甘すぎずに美味しくできて大変満足。
ほろほろ、サクサクの程よい歯ざわりで、ほんのちょっと加えた塩が効いている。簡単につくれて、元気な時に食べても美味しいおやつ。
≪栄養補給にも、普段のおやつにも美味しい「塩きな粉クッキー」≫つくりやすい分量(だいたい15~18枚分)
・きな粉:30g
・薄力粉:90g
・お好みの油脂(今回はグレープシードオイル使用。匂いのないこめ油が最も向くかも):30g
・お好みの砂糖(今回は粗製糖を使用):30g
・水:少々(大さじ1~2程度)
・塩:軽くふたつまみ程度
1)粉類をボウルに入れ、空気を含ませるようによく混ぜる。面倒でない方はふるいにかけると良いですが、かけなくても美味しくできます。
2) 1)のボウルに油を加えてよく混ぜる。最初はぼろぼろでまとまりづらいが次第にまとまって来るので、ひとまとまりになる程度に。足りない分は水を少しずつ加えて調整し、そのままスライスしてクッキーになる大きさの棒状~なまこ型にまとめる。
3) 2)の生地をラップにくるんで冷凍庫で15~30分休ませ、扱いやすくする。その間にオーブンを170℃、またはグリルを中温に予熱。
4)休ませた生地を3~5mm程度の厚さに切って(薄ければ軽めの歯ざわり、厚めならしっかり)オーブンシートに並べ、予熱したオーブンで12~15分程度、お好みの加減に焼いて完成。今回は両面グリルの中火で10分。網の上で粗熱をとってから容器に移し、1週間程度保存可能。湿気た場合は少し焼き直しても。
予め冷凍した生地をスライスして焼くアイスボックスクッキーは、小学校3~4年生ぐらいの頃に読んだ桐島洋子さんの食エッセイで頭の隅にインプットされた。
来客時に子供に頼んで焼かせることが可能な簡単さと、冷凍するからこそ扱いに耐えるたっぷりのバターというのが印象的で、いかにも大人のための贅沢な食べ物という感じがした。オニオングラタンスープもこの本から知ったし、他にも田舎の子供が憧れるおしゃれな食べ物がたくさん登場したけれど、母よりさらに年上の桐島さんが描かれる国際的で華やかな世界は自分の置かれた周囲とあまりに遠すぎて、そんな世界が一体どこにあるのだろう…と途方に暮れるような気分にもなったものだった。
小中学校の頃は有名人・文化人の食エッセイを読むのが大好きで、他にもフランソワーズ・モレシャンさんや池田満寿夫さん、東海林さだおさんなど様々な方の著書を文庫で買い集めては愛読していた。食べ物の味やつくり方だけでなく、その方なりの食への価値観やこだわりが見えるのが好きで、中でも本書はかなり個性的な一冊だった。現在購入可能なのは以下の版だが、私が持っていたのは美しい桐島かれんさんがコック帽をかぶった表紙の文庫本。
そのやや挑戦的と取れなくもないタイトル(いかにも70~80年代っぽい)から、小学生の私は手に取るのを若干躊躇した。内容も少々大人向けだったので、学校や登下校など人前で読むのはなんだか恥ずかしく、帰宅後にじっくり少しずつ、繰り返し読んだ。だから今でも色濃く記憶に残っているのかも知れない。