見出し画像

隠れた水戸名物、表面パリパリ、中しっとりのリッチな「アーモンドケーキ」を三店で食べ比べ(シュール洋菓子店、マリアヴェルト、パティスリーシュールミガワ)

アーモンドケーキというと、アーモンドプードルが生地に混ぜ込まれたパウンドケーキを思い浮かべるかも知れない。しかし、今回取り上げるケーキはそれとは違ったタイプのものだ。店舗によって名称が「アーモンドタルト」或いは「パイ」だったりもするが、同種の洋菓子を水戸市内の洋菓子店では驚くほど多く目にする。実は名物なのである。

それがこちら。
表面はエンガディナーのようにスライスアーモンドがぎっしり封じ込められたキャラメルで覆われ、中はしっとりとしたバターケーキ。煮りんごやレーズンもいくらか入って見た目にも愉しく、それらを支える底面のパイ皮の香ばしさ。もう完璧と言う他ない組み合わせだ。素朴ながらも実に贅沢な味わいの洋菓子で、上下の面がしっかり焼き固められているため崩れにくく、持ち運びにも向く。

紙袋でも全く崩れない頼もしさ

水戸へはここ10年ほど毎年のように訪れているが、アーモンドケーキが水戸名物と知ったのはごく近年のこと。夫と行く機会が増え、車を使えるようになったのでその前提で旅程に組み込める好みのパン屋、和洋菓子店を探して「シュール洋菓子店(パティスリーシュール)」を見つけた。いかにも昔ながらのレトロな街のケーキ店的外観に名物は「アーモンドケーキ」。是非行ってみたい、食べてみたいと思った。

シュール洋菓子店のアーモンドケーキは実にバランスが良く、完成された一品である。
上部のキャラメル層は厚く、アーモンドもぎっしりでまるでナッツバーを食べているみたい。上質なキャラメルの甘さとわずかなほろ苦さ、パリパリとサクサク両方の食感が楽しめるのも嬉しい。受け止めるバターケーキは卵の風味が豊かで子供の頃に初めて食べたパウンドケーキのような軽やかさと懐かしさ。ラムレーズンや煮りんごも卵やバターの香りを引き立て、全体の風味を増している。底面のパイ生地も上部同様に厚くしっかり焼かれ、いかにも昭和のケーキらしい充実感。とても美味しかった。
同店初訪はたまたまクリスマスシーズンで、繁忙期のため商品を苺のケーキとアップルパイ、アーモンドケーキの三種に絞って販売していた。苺ショートもアップルパイも角の取れた特有の切り分け方で、残数の少ないショーケースを眺めつつそちらも美味しそうと思った。以降も行く度心惹かれつつ、それでも結局アーモンドケーキを買う。できれば水戸へ行く度買いたいくらいで、アーモンドケーキというと真っ先にシュールを思い出す。

シュール洋菓子店とは特徴が異なるが、やはり好きで毎回行くのが「マリアヴェルト」。ここもいつ行っても地元客が引きも切らずに訪れる人気店で、色とりどりの季節のケーキや焼菓子のどれもが美味しい。名物は注文後にクリームを詰めてくれる「焼き立てコルネ」だが、ここにもよりお洒落な「アーモンドタルト」がある。
「シュール」と比べてややスリムなカット、表面のアーモンドもより細かく砕かれてキャラメルを纏っている。ケーキ部分はバターの香りが実に豊富でリッチな舌触り。洋酒漬けのフルーツも色・味ともに可愛らしく、全体的にソフトで優しい感じの味、だが各材料の上質さが印象に残るアーモンドタルトだ。こちらもバランスの取れた、この店らしいアーモンドタルトだと思う。やはり毎回買いたくなって、電車で向かうにはやや厳しいアクセスだが、車で行く際には必ず寄る。

さらにもう一軒、冒頭のシュール洋菓子店の息子さんが開いた「パティスリーシュール見川」。ちょっと目を引くスタイリッシュな店舗で、扱う菓子は焼菓子各種にショコラ、ケーキと多岐にわたる。とりわけ正面奥のガラスケースに収められ、スポット照明の当たった各種ケーキの美しさが印象的だった。食材やフルーツを思わせる美しい色合い、効果的に重ねられた層の断面、もちろんデコレーションも美しい。思わず近寄って見ると、地元食材やフルーツの組み合わせもやや個性的で食べてみたくなる味の重ね方だった。きっと味づくりに巧みなパティシエがおられるのだろう。他店で既に何品か買った後だったため焼菓子数個とアーモンドケーキを購入したが、次訪の折には是非とも生ケーキも味わいたい。

ちょっと目を引くおしゃれな店舗

「ミガワ」のアーモンドケーキはシュール本店と同じレシピで作られているとネット記事で見たが(「ミガワ」公式サイトにもその旨の記載があった)、私個人は同じとは感じなかった。使われている材料や配合、焼き加減のいずれも本店とは少し異なるように思う。

1ピースサイズのケーキの箱が用意されている。それだけケーキに力が入っているようだ

両店のケーキ断面を比べると、見た感じは似ているものの味わいはけっこう違う。ミガワはより現代的な味と言おうか、卵がそれほど主張して来ない。パウンド生地はあくまで全体を構成する一要素という感じ。パイ生地の主張も控えめで、アーモンド層の印象が最も残る。1ピースのカットは本店よりやや大きめ。
決して悪くはないのだけれど、本店の味を好む私からすれば少々物足りなく感じた。バランスが異なるからだ。使う型や機材が違えば焼き上がりも違って当然だけれど、まだ「代表作」「名物」というほど完成された感じがしない…というのはあくまで個人的感想。今後より「ミガワ」らしい味に練られ、完成されて行くのではないだろうか。それもまた楽しみ。

上が本店、下がミガワ

ちなみに各店の1ピースの重量を比べてみると、2024年11月末時点で「シュール」74g、「マリアヴェルト」64g、「ミガワ」82gだった。一見すると「マリアヴェルト」のカットは「シュール」の半分ほどにも見えるのだが、重量にそれほど差がないのは「マリアヴェルト」はバター多めのしっとり生地、「シュール」は卵多めのふんわりとした生地という違いかも知れない。

それにしても、これほど美味しいアーモンドケーキ(タルト)、水戸駅でも買えたらいいのにと思うのだが、駅ビル常設店でアーモンドケーキを見た記憶はあまりない。季節によってはイベント出店店舗で見ることもあるが、あくまで一時的な出店なので、やはり足をのばして買いに行くのが確実。店舗によってはオンラインショップやふるさと納税にも対応しているので、食べてみたい方はそちらも是非。

いいなと思ったら応援しよう!