“禍‘’の終わりを実感する店舗復活、鶴見のおはぎ・いなりの名店「こめ蔵」
コロナ禍で区や県をまたぐ外出ができなかった頃、鬱々としがちな気分を少しでも晴らしたくて散歩をよくしていた。運動不足解消のためでもあったので歩く距離はそれなりに長く、1時間や2時間は平気で歩いたので、自宅から5〜10キロ程度の範囲にずいぶん詳しくなった。
ここもそんな散歩を通して訪れた店のひとつである。鶴見の「こめ蔵」さん。
同店は「マツコの知らない世界」等でも取り上げられた有名店なので、ご存知の方も多いかも知れない。私は歩いて行けそうな範囲の和菓子店を地図アプリで探していて見つけたのだが、コロナ禍真っ只中の2020〜2021年当時は営業日がかなり少なく、不安定だった。
後には営業日が貼り紙や録音メッセージでわかるようになったが、最初に店の前を通った時にはそれもなく、行っても営業しているか否かは運次第。販売量もかなり絞っていたのだろう、平日でもすぐに売り切れてしまうので、たまに行って買えるかどうか、という感じの存在だった。
初めて買えた時の店舗の様子はこうだった。シャッターが半開きで、客は一列に並んで買いたい数を指定。ひと組あたりの購入数も絞られていた。
この時買ったのはおはぎ(つぶあん)の3個入りといなりの5個入り。いなりは5個入りのみ、おはぎはつぶ・こし各々3個入りと5個入りがあり、迷ってつぶあんを選んだ。
それほどたくさん買った訳ではないのに渡された袋がずっしり重いのは、まるであんこがぎっしり詰められたパックみたいにあんこがたっぷりの大きなおはぎと、同じく大きないなりだったから。特におはぎの重量感はすごい。見ただけで心が躍り、「美味しい緑茶をいれようかな」なんて思ってしまう。
おいなりさんも惜しみない大きさ。これだけでも店の質、心意気がわかるというものだ。一時期いなりずしにもはまって随分いろいろな店舗で買ったので、その辺りのカンは働く。実はこの時も、すぐ売り切れるというおはぎよりむしろ「老舗和菓子屋のおいなりさん」目当てに訪れたのだった。
それにしてもおはぎが大きい。いなりずしと比べても大きいくらいである。ストレスがたまりがちだった、というより常時ストレスまみれだったあの頃、このたっぷりのあんこに心癒された方がどれほどいたことだろう。私も見ただけで嬉しく、ちょっと元気になれた。
箸を入れるとあんこの多さがよりよくわかる。適度な半殺しのもち米を、しっかりとつぶあんが分厚く覆って大変美味しい。一個でおなかいっぱいになりそうな充実感。甘さ自体はどちらかと言うと控えめだが、何せあんこたっぷりなので満足感がすごい。大人気も納得である。ほんの少しの塩味が程よく、後味もよい。
いなりはおはぎに比べると「懐かしい」「素朴な味」との感想が目立つようだが、私にとってはかなり好みの味だ。
近年のいなり専門店は「甘い」に特化した味付けが多く、甘みの種類は多様化する一方で酸味や醤油の風味は物足りず、それらの味もしっかり感じられるいなりずしはむしろ希少傾向にある。その意味で、小さな和菓子店が昔ながらの調味料を使って炊くおいなりさんが私は好きで、中でも「こめ蔵」さんのはかなり気に入って、看板商品のおはぎ以上に繰り返し購入している。酸味を比較的強めにきかせた具なしの酢飯とまろやかな油揚げとのなじみが良く、つい2つ、3つと食べ進みたくなるが、この大きさなので気を付けないとものすごく満腹になる。老舗のおいなりさんは美味しい。
さて、そんな「こめ蔵」さん。コロナ禍がひと段落つき、私の行動半径も元に戻りつつあったので、気付けばしばらく足が遠のいていた。先ごろちょっと歩きたくて久しぶりに行ってみたところ、驚いた。
店舗が!店舗がすっかり開いている!初めて見た!
シャッターがすべて開くとこうした外観をしていたのかと感慨深い。ああコロナも本当に終わったんだな(新種は流行っているが、あの頃のような正体のわからぬ恐怖や不安、行動制限がなくなったという意味で)と実感する。最近こうしたことでコロナ禍の終焉を実感することが多い。店の営業が元に戻ったり、品揃えが増えたり。あの頃はスーパーへ行ってもものが買えず、手に入らないものがたくさんあった。
久しぶりにおはぎを買って帰宅。今は1個から好きな個数を買えるので、つぶあんとこしあんを1個ずつ買った。
パックにみっしり押し込まなれなければこんなに丸くてかわいい形だったのね、と改めて思う。好きな個数を買えるようになってよかった。
気になっていた重量も量ってみる。つぶあんの方がやや重いが、だいたい1個150g強といったところ。やはり重い。コンビニおにぎりの倍近くの重さなのだから、1個でおなかいっぱいになるのもむべなるかな。
半殺しの加減も変わらず上手。より「あんこ食べてる」感が感じられるつぶあんも、なめらかなこしあんもどちらも美味しい。やはりどちらも食べたくなる。
ああ満足。久しぶりに行ってみてよかった。今は購入制限もなく、より気軽に買えるようになったので、またちょくちょく通いたい。
酷かった猛暑もようやく少しだけ緩み、散歩がしやすい気候になってきた。秋のお彼岸も近付き、よりおはぎが食べたくなる季節。行楽にはおいなりさんやお赤飯ももちろん良い。私は自分でもいなりやお赤飯をよく炊くけれど、和菓子屋の味が恋しくなってよく買いに出かける。
散歩ついでに買うこういうおやつって良いですよね。