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米津玄師/Azalea
11月に発表された米津玄師の新曲「Azalea」。
その世界観について感じたことを書いてみる。
(あくまで私個人の感想です。感じ方は人それぞれです。)
まず「Azalea」とは何か。
それは「ツツジ」のことであり、
花言葉は「恋の喜び」。
なるほど、恋について書いた詩なのか。
しかしイントロから漂う空気感は
どこか寂しげで
怖さに似たものさえ感じた。
これは何なのであろうか。
よく歌詞を読み解いていくと、
その理由が分かってきた。
この詩には一貫したテーマがあるように思う。
それは「生と死」である。
どういうことか。
そのヒントは2番に出てくる
「クリムトの絵」にあると思う。
クリムトは19世紀~20世紀に活躍した
オーストリア出身の画家である。
彼の作風は官能的である一方で、
死の匂いを漂わせる。
金箔を用いるなど優雅な雰囲気を醸し出す中に、死が同居する。
特に「死と生」という作品は
まさに生命の「コントラスト」を描いている。
目を見つめていて
もう少し抱いて ぎゅっとして
それはクリムトの絵みたいに
クリムトには「接吻」という有名作品があるが、
それは男性が女性を抱いてキスをする様が
描かれている。
ここの歌詞はそうしたイメージを彷彿と
させながらも、クリムトの表現する死生観を
纏っており、そのコントラストが儚く見える。
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こうした対比の構図は、
全体を通して多く表現されていると思う。
咲いてた ほら 残してった挿し木の花 あの時のままだ
挿し木とはつまりAzaleaであろう。
その挿し木があの時のままである。
あの時のままではあるが、
挿し木ということはつまり切られた木であり、
それは「死」とまで言わなくても
悪い暗示を意味するように思える。
せーので黙って何もしないでいてみない?
今時が止まって見えるくらい
君がどこか変わってしまっても
ずっと私は君が好きだった
何もしないで見つめ合うと、
時が止まったように見える。
でも実際は時の流れを止めることはできない。
ひょっとすると、何もしないでいることしか
できないのかもしれない。
死んでしまえば、その人の時は止まったままだ。
でも死んでしまったということは、
変わってしまったということ。
どうであれ、君のことが好きだった過去の記憶は変わらない。
泡を切らしたソーダみたいに
着ずに古したシャツみたいに
苺が落ちたケーキみたいに
捨てられない写真みたいに
そこにいてもいなくても
君が君じゃなくても
私は君が好きだった
君はアザレア
「みたいに」と表現されているものは、
時間の経過などによって
本来の姿や完全な姿を失ったものである。
そして、そうした「君」が、
もはやいてもいなくても、
「君」が「君」ではなくても
「君」が好きであった、と。
これは恋によって盲目になった人物の失恋を
描いているとも読めるが、
もっと深い意味、
「恋」を失うよりももっと根源的な喪失、
つまり「死」を表現しているようにも思える。
曲全体を通して、「生と死」というテーマが貫かれ、そのテーマが持つコントラストを「恋」という情動によって際立たせている。ただ「死」については直接的表現はしない代わりに、クリムトという芸術家を通して聞き手の心の深いところで死を暗示させる。また、最初に触れたようにAzaleaの花言葉は「恋の喜び」。それを知って聞き直せば、喜びと悲しみのギャップにより悲壮感や喪失感を増幅させるように思う。例え死を表現しようとしたのではないとしても、「命」という儚いものを表現したかったのではないか。
以上が私が感じたことである。
すごい、世界観だな・・・と思った。
すごい。本当に。
因みに私はこの作品について本人のインタビューなどを読んでもいないし、他の人の考察も読んでいない。勝手に自分で聞いて言葉を調べて感じたことを書いているので、真偽は分からない。その点はご容赦いただきたい。
米津玄師の歌詞はどれも文学的で非常に読みごたえがある。
曲のテンポが速く聞いているだけでは理解できないこともあるので、
彼のCDを購入して歌詞カードと向き合い、ゆっくり詞の世界に浸りたいなあ、と、思っている。
でもそんなこと思わせるアーティストはなかなかいない。
本当に天才的で稀有な存在だと思う。
ーーーーー
追記
この記事を書いてから、Azaleaがネットフリックスのドラマの主題歌と知った。実に切ないストーリーであることが予告編を見るだけで分かる。ドラマの内容と重ね合わせて聞くと、さらにこの曲の世界観が広がりを持つのだろう。(私は加入してないので見られないが…)
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