マーケティングのありがちな失敗①「差別化」の罠にはまる
今日も仕事の話から。
マーケティングというと、「差別化」という言葉がついて回ります。
元々は、マイケル・ポーターが競争戦略として言い出したものでしょうか。
「差別化」という言葉は非常に有名で、マーケティングの基本としても良く知られています。しかし、実業で行う場合、「差別化の罠」に陥ることがあります。これは、僕自身もプランニングで経験したことがあります。
「差別化の罠」とは、簡単にいうと「差別化」という「手段」が「目的」化しまっている(「他社との『差別化』さえできていればそれでよい」と考えている)状態です。この状態だと上手くいく場合もありますが、失敗する可能性も高いです。
「差別化」について、これまでマーケティングの実業を通じて思ったことは大きく2つです。
①そもそも、何のために「差別化」が必要なのか?
②良い「差別化」悪い「差別化」の違いは何か?
これらの問に、順に答えていくことにします。
①そもそも、何のために「差別化」が必要なのか?
マーケティングの場合、ほとんどの目的は「ビジネスを伸ばすこと」、その中でも特に「売上を伸ばすこと」です。つまり答えは「売上を伸ばす為」になります。ざっくり言うと「売上を伸ばす」→「より多くのお客様に買ってもらう/より高い価格で買ってもらう」→「そのために、他社と『差別化』をする必要がある」という順番になります。
「差別化」を考える際は、「その『差別化』が、ビジネスを伸ばすことに繋がるか?」を考えなければなりません。
例えば、「27歳独身OLが木曜日に飲むビール」というコンセプトのビールがあったとしましょう。
これも、「女性用のビール」「平日に飲むビール」という点は全く悪くないと思います。ただ「25歳」「30歳」でなく「27歳」ではいけない必然は何か?「平日」ではなく「木曜日」ではない必然は何か?という事はきちんと考える必要があります。
「27歳」にした時点で、それ以外の年齢のターゲットを捨てることになり、(25歳~29歳女性の人口は、20歳以上の全国人口の約2.8%)「水曜日」にした時点で、それ以外の曜日を捨てることになります。(週7日のうち1日)つまり、このコンセプトを採用すると、大幅にビジネスの可能性を狭めることになります。
「この領域を100%とったとして、売上がいくらになるか?」
…という事はは冷静に考えた方がよいでしょう。
そういう時に「数字」は非常に役立つ道具です。
※ただし、商品コンセプトとは別に「27歳独身OL」を代表的なユーザーペルソナの一つ、として設定する、という事であれば、全く問題はありません。そういったペルソナ設定が商品のコンセプトと混同され、ビジネスを狭めてしまうことが問題です。
②良い「差別化」悪い「差別化」の違いは何か?
答えは大きく2つあると思います。ひとつは前述の「ビジネスを伸ばすかどうか」です。もうひとつは「消費者から見て意味のある(便益に繋がる)差別化になっているかどうか」だと僕は思います。企業側が「差別化」だと思っている点が、消費者から見た場合に意味のある「差別化」になっていない、ということはママあります。
「他者と同価格で、他社より1.5倍の●●を配合!これは他社の技術ではできないことだ」
というようなものが「企業側から見た『差別化』」です。しかし、本当に考える必要があるのは「消費者から見た『差別化』」、つまり「その●●という成分が1.5倍入っていることが、消費者の便益にどうつながるのか」という点でしょう。例えば最近流行の「ヤクルト1000」は「1,000億個の乳酸菌が入っている」という機能スペックではなく、「睡眠の質向上」「ストレス緩和」という便益で買っている人が多いはずです。
先程①で出した「27歳独身OLが木曜日に飲むビール」を例に考えてみます。このコンセプトも、ターゲットやオケージョンを絞っているだけで消費者便益には直接はつながっていません。これを便益につなげるとしたらどういったものになるでしょうか。
有職の独身女性が平日に飲む、という事に焦点を絞れば
「仕事のある平日に、気分をリフレッシュしたい」
「でも翌日は仕事があるので、酔いを翌日には残したくない」
…というようなニーズだったり
「ビールを飲んで仕事の疲れをリフレッシュをしたい」
「でも、大勢での飲み会ではなく、一人で楽しみたい」
…というニーズがあるかもしれません。
そういったニーズを基にすれば
「気分をリフレッシュするが、翌日には残らない、さっぱりした軽いビール」
「1人で、他の人に邪魔されず自宅でじっくり楽しむビール」
のような便益コンセプトが出来ます。このように消費者の文脈や、それに基づいた便益をコンセプトにすれば「27歳独身OL用」のような表面上の狭いセグメントは必要なくなり、より大きな、同じような心理を持っている人を反応させることが出来るわけです。(ただ今回の場合、コンセプトはあくまでも参考として出した例ですので、受容性は大分怪しいと思ってください)
セグメンテーションの本質は「市場の細分化」ではなく「市場の再定義」です。元々考えている市場を超えたターゲットをできるようにカテゴリや商品を再解釈する、という視点が重要です。「今の市場には●●●●人しかいない」「その中で細かいセグメンテーションを行いそこで勝っていこう」という思考法ではなく、「世の中の全ての人をターゲットと考えたときに、その中でより多くの人が自カテゴリや自ブランドを選ぶように再構築する」ことがセグメンテーションの本質です。その方法として、消費者の生活文脈やベネフィットを考えることはとても重要です。
その意味では商品の「機能の差別化」よりも、「便益の差別化」を狙った方がよく、それでビジネスが伸びれば、理想的なわけです。そして様々な商材で、そういった「便益の差別化」は実際に起こっています。そういった事例はまた別の機会に記載できればと思います。
引用文献:芹澤連「未顧客理解」日経BPマーケティング
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