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旅は映画のように―タイ北部編 その2
DAY3
スクーターでスコータイの旧市街から新市街ヘ
前日、活動を早めに切り上げたので、5時に起床できた。トイレに行くと、まだカエルが。小用を足したあとに、水を流したら、一緒に流れていってしまった。ごめんね、カエルくん。
長旅で体が凝り固まっているので、B-lifeのユーチューブを見ながら、30分ちょっとヨガをする。ヨガマットがなくてもできる、ストレッチの要素が強いもの。
6時から宿で軽食が食べられるというので、2階の部屋から食べに下りる。小さくて薄いパンを2枚トーストして食べ、おやつ用に小さなバナナを4本もらう。時間に余裕があるので、前の日に撮れなかった、猫ちゃんの写真も撮る。
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宿のおかみさんに、旧市街から12キロほど離れた新市街に行くソンテウがないか聞くも、ないから、アプリを使ってタクシーを呼べという。自分でできなければやるが、手数料がかかるという。
昨年夏にマレーシアに行ったとき、Grabという車を呼べるアプリを入れていたので、それを使ってみる。が、何度かトライしても車がつかまらない。仕方ないので、バイクタクシーにする。バイクタクシーは見つかり、宿の付近で担当してくれる男の人と会えた。バイクというより、スクーターね。
全ての持ち物が入ったザックを背負い、初対面の男性の体に手を回し、直線道路をひた走る。人生初の体験である。風を切りながら走っていると、心から自由を感じる。『ローマの休日』(1953)のオードリー・ヘップバーンになったような気分。ずいぶん年増の王女ではあるが。
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スクーターを運転している男性は、道を知っている訳ではなく、時々止まって、スマホで道を確認しながら運転再開。無事、この日に泊まる宿に到着。
シーサッチャナーライ歴史公園へ
宿の男性のご主人に、今日泊まるので、荷物を置かせて欲しいと伝える。持って行く物だけをサブザックに入れ、世界遺産のシーサッチャナーライ歴史公園に行きたいと相談する。
『地球の歩き方』によると、一番早いバスは6時で、これは元から無理だと思っていたので、2番目の9時半のバスに乗ることに。
ご主人は、紅茶のパッケージの裏を2枚使って、行きと帰りのバスの時間と、「歴史公園前で下ろしてくれるように」という依頼文を、英語とタイ語両方で書いてくれる。さらに、スマホ片手に、グーグルマップのストリートビューを用いて、バスを下りてから橋を渡ると遺跡だと教えてくれる。何とも親切かつ丁寧。
宿からバスターミナルまで20分弱かかるので、早めに出発する。チケットを買い、いざ出発。1時間少しで、遺跡前に到着するも、下りたのは私のみ。しかも、レンタサイクル店がすぐには見つからず、行ったり来たりしてしまう。何箇所かで聞いて、やっとレンタサイクルを借り、帰りのバスの時間も確認する。自転車は、「〇〇ハイツ」というシールが貼ってあり、おそらく期限切れの放置自転車。はるばる日本から海を渡って来たんですな。
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宿の主人は帰りのバスは2時半があると書いてくれたが、バスターミナルでは1時半といわれ、レンタサイクル店のおじさんは、4時半しか載っていない紙を見せて来る。どれが真実かわからないが、3人とも4時半のバスがある、という点は共通しているので、遅くなるが、それに乗ることに。
宿のご主人に教えてもらった橋を渡る。
怖いので、自転車を下りて押しながら渡る。と、向こうから地元の人がバイクに乗ったまま、渡って来る。すげぇ度胸、と思う。
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この日、お会いした方たち。
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こういった方たちにお会いして、自然も豊かで、心が広々して来るのだが、難点は野良犬の多さ。こちらは入場料を払っているのだが、彼らからすれば、弱っちくて妙なのが自分たちのテリトリーに入って来た、ということで、吠えるのだ。しかも、何匹か一緒に吠えて来たりするのだから、かなわない。なるべく犬から遠ざかるようにし、こちらに向かって来そうなら、すぐに近くの木によじ登る覚悟で、遺跡を見る。
いろいろな木の花が咲いていて、気分よく写真を撮っていると、知らないうちに一匹のわんちゃんのテリトリーに入ったらしく、追いかけられる。慌てて、たまたま近くにあったミュージアムに駆け込み、しばらく息を潜める。
チャップリンの『犬の生活』(1918)では、他の野良犬にいじめられる犬をチャップリン演ずる浮浪者が助けるが、その犬になった気分。
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公園のお花たち。
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時間は余っているけれど、特にすることもないので、バスが止まる場所に戻ることに。帰り道で子猫ちゃんと遊ぶ。お腹が空いていたようで、私の膝に飛び乗る勢い。小腹が空いたとき用に小魚を持っていたので、それを少し上げる。がっつくと、もう用済みとばかりにおくつろぎなさる。現金なものである。
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スコータイへ
4時半にバスが来るはずが、5時頃ようやく到着。待ちくたびれてしまった。この日は、小さなバナナを4本食べただけで、きちんとお昼を食べていなかったので、スコータイに着いた時点で、腹ぺこ。
宿までの帰り道で、鶏肉とレバーのようなものが乗ったラーメンを食べる。ライスを食べている人がいたので、それを指差したつもりが、同じテーブルの他の人がラーメンのようなものを食べていたので、そちらが出てきてしまった。でも、お腹が空いていたので、食べられればオッケー。汗をかいたので、汁まで飲んだ。腹ぺこ過ぎて、写真も撮り忘れる。大きな犬がうらめしそうな顔で近くに来るが、この日散々怖い思いをしているので、視線を合わせず、無視。彼は肉のお余りが欲しかっただけかもしれないのだが。
宿に着くと、ご主人が「◯◯(私の名前)、無事に帰って来てよかった。」と、とても喜んでくれた。私のパスポートのコピーを取っているから、私の年齢はわかっているのに、娘の無事を喜ぶように、私の無事を喜んでくれた。喜びついでに、ミネラルウォーターを一本サービスしてくれた。いくつになっても、金銭を介した関係ではあっても、気にかけてくれる人がいるということは、うれしいものである。
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ご主人に、明日、世界遺産であるカムペーン・ペッ歴史公園に日帰りで行きたいと相談する。行きのバスの時間はわかるけれど、帰りはわからないという。この日は、チェンマイに移動し、チェンマイに宿泊する予定である。すでにスコータイからチェンマイへのバスのチケットは買ってしまったし、チェンマイのホテルも予約済みである。
スコータイ発チェンマイ行きは、予約した16時半を逃すと、次は深夜便しかない。着くのは早朝になり、ホテルを予約した意味がなくなる。
さんざん考え、ひとまずバスでカムペーン・ペッまで行き、帰りのバスがないようなら、Grabに頼ってみることにする。
DAY4
スコータイからカムペーン・ペッ歴史公園へ
6時起床。朝ヨガをやり、2日目に買ったマンゴーを、宿で借りたナイフでカットして食べる。
ご主人の見せてくれた時刻表では、8時45分のバスがカムペーン・ペッ行きの始発だったが、『地球の歩き方』によると、7時半から30分〜1時間おきにあるという。早めスタートがよいと思い、7時半前に宿を出発。バスターミナルにコインロッカーがないので、宿に荷物を置かせてもらう。
うまいこと、バスでカムペーン・ペッから帰って来られたら、ターミナルから歩いて15分ほどかかる宿に荷物を取りに戻り、またターミナルまで行く必要がある。これがちょっと面倒。
民家の飼い犬に吠えられながらバスターミナルに着くと、8時のバスがあるという。帰りのバスの時間を聞くと、14時があるという。ラッキーである。これに乗れれば、余裕を持って、16時30分発のチェンマイ行きに乗り込むことができる。
バスというより、バンに乗り込み、いざカムペーン・ペッへ。歴史公園は2つのエリアにわかれているのだが、見学した帰りにバスターミナルまでどう行くかをさんざん考えた結果、森の中に遺跡が点在するエリアから見ることにする。
バスの終点まで行くと、歴史公園から遠くなるので、グーグルマップとにらめっこし、森のある歴史公園の近くで下ろしてもらう。
歴史公園の入口まで歩くが、またもや犬たちがたむろしており、早速洗礼を受ける。入口でレンタサイクルのことを聞くが、ないという。『地球の歩き方』にはあると書いてあったのだが、コロナでやめてしまったのか。公園を一周すると5キロぐらいといわれる。9時過ぎだが、既にむっとする暑さで、この暑い中歩くのかと思うと、げんなりする。しかし、せっかくここまで来たのだから、覚悟を決めて歩き始める。
お会いした方たち。
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広い公園は、暑いけれど、木立ちに囲まれ、いい気分。スコータイやシーサッチャナーライは丘の上の遺跡もあったが、カムペーン・ペッは坂がなく平坦である。国際基督教大学の構内みたいだ、さしずめ熱帯のICUだな、などとバカなことを考えながら歩いていると、昨日同様、複数の犬がどこからか吠える。ぼんやり歩いているうちに、彼らのテリトリーに入ったらしい。
声の方角からはなるべく離れるようにして歩く。今度は、遺跡の建物に一匹の犬が陣取って、ワンワン吠えている。そういう遺跡は遠くから眺めるだけにする。カムペーン・ペッは原型をとどめていないものも多いし。
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前日のシーサッチャナーライも、インフォメーションセンターが涼しくてよかったので、一度インフォメーションセンターで休むことに。
行ってみると、トラムが出るところ。乗りたいというと、次のを待つようにいわれる。しばらく待つと、若いお姉さんが運転したトラムがやって来る。私が行きたいという場所まで連れて行ってくれた。暑い中、少しでも歩かずに済んで、本当に助かった。
入口に戻り、もう一つのエリアヘ。こちらは、あっけないほどすぐに見終わった。
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カムペーン・ペッのバスターミナルヘ
『地球の歩き方』によると、バスターミナル以外でもスコータイ行きのバスに乗れる場所があるようなのだが、その場所がはっきりとはわからない。ツーリストインフォメーションがあったので、スコータイ行きのバスに乗れる場所を聞くが、バスターミナルに行くようにいわれ、仕方がないので、バスターミナルまで行くことにする。
2時のバスまでに、かなり時間があったので、バスターミナルまで、可能な範囲で歩いてみることに。道路は、車やバイクが通るだけで、歩道を歩いている人は誰もいない。朝からマンゴーと、虎屋の羊羹を食べただけで、お腹が空いたので、割にお客さんが入っているお店で、お昼にする。昨日食べたラーメンは黒いスープだったけれど、今日のは白いスープだ。全く辛くなくて、辛いのが苦手な身には助かった。セットで出されたお茶がおいしかったので、残った分を、空になったペットボトルに入れて行くことに。
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お昼を食べて元気になったところで、巨大な橋を渡り、対岸へ。
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バスターミナルに着くと、13時40分のバスがあるという。早くスコータイに帰れてうれしいが、じゃあ、14時のバスがあるというスコータイで聞いた情報は何だったんだろうと思う。
スコータイからチェンマイへ
スコータイに着くと、まだ時間に余裕があるので、屋台で持ち帰りのガパオライスを買う。チェンマイに着くのは、22時の予定で、それまで何も食べないのはしんどいので、早めの夕食。お店の女性が2つのビニール袋にご飯と具を分けて入れてくれるが、頼んで使い捨ての食器もつけてもらう。
宿でご主人にロビーで食べてもいいかと聞くと、いいという。きちんとした食器も出してくれる。感謝である。ご飯と具をお皿によそい、食べると、辛い辛い。口中がヒリヒリして来る。ただでさえ、暑くて水分が必要なのに、これではいくら水分を取っても足りないのではないかと心配になる。胃が弱いので、この刺激で胃が痛くなるのではないかと怖くもなる。かなり量が多く、使っている肉も固かったりして、全ては食べきれない。残った分は、自分で廃棄する。
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ガパオライスを食べると、それほど時間に余裕はなく、全ての荷物を背負って、少し急いで、バスターミナルヘ。
バスターミナルに着くと、ヨーロッパ系の男女が2人、同じバスを待っている。遅れては大変、と急いで来たのに、待てど暮らせど、バスは来ない。
予定の時間を過ぎたあたりで、同じくチェンマイ行きを待っているヨーロッパ系の女性に話しかけられる。キリスト教の3大巡礼地の一つである、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ出身で、2月からチェンマイで秘書として働いており、休みを利用してスコータイに来たという。日本には、相模原市に2週間滞在して、小学生相手に英語を教えたことがあり、そのときに高尾山や陣馬山にも登ったそう。私がホームグラウンドのようにしている山に登ったことがあると聞いて、親しみがわく。
彼女は何度か日本に来たことがあるようで、奈良でシカにエサをあげている動画や、熊野古道とサンティアゴ・デ・コンポステーラの両方を歩いた、デュアル・ピルグリムの証明書の写真などを見せてくれる。サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの道は歩いてみたいけれど、日本からだと日数が必要だから、実現していない、なんて話をする。でも、彼女も全行程を踏破した訳ではなく、ラストの100キロのみらしい。
30分以上遅れて、やっとバスが到着。それぞれ指定された座席に座り、出発。5時間半のバスの旅。バスの中は暗いので、寝るしかない。揺られているうちにいい具合に眠くなり、うとうとするが、目覚めるとタイ人がベラベラ喋っていて、なかなかにうるさい。ラインをチェックすると、友人からラインが来ている。精神的に参っているよう。海外に来ていることは伏せて、元気づけるメッセージを送信する。車内のタイ人は、チェンマイ到着まで、ラジオみたいにずっと喋っていた。
バスがチェンマイのバスターミナルに到着すると、11時近く。バスターミナルで話したスペイン人の彼女が話しかけてくれる。一緒に行動したい旨を伝える。以前、バスターミナルに着いたときは中心部へのバスがあったそうだが、時間が遅いため、見当たらない。彼女がBoltという配車アプリでタクシーを呼び、私の宿泊するホテルまで同乗してくれる。
スマホでググって、写真を見せながら、スペインのビクトル・エリセという映画監督が好きだと伝えるが、彼女は知らないという。残念! 今度、観てみるね、と言われた。
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タクシーから下りるとき、お金を支払おうとすると、彼女から、もう払ったから大丈夫だといわれる。
ホテルにチェックインし、従業員に彼女と一緒の写真を撮ってもらう。ラインを交換し、チェンマイ滞在中に何か困ったことがあれば、いつでも連絡して、といってくれる。
彼女に、どうやって家に帰るの、と聞くと、またタクシーを呼ぶという。私のせいで、二度手間になり、お金も余分にかかっている。けれど、迷惑そうな素振りひとつ見せない。
彼女は、初対面にも関わらず、深夜に知らない町に着いて心細かった私に無償の愛を示してくれた。私よりもずっと若いだろう彼女が、神から遣わされた天使に見えた。天使は、ベルリンだけでなく、タイにもいたのである。Beaさん、本当にありがとう。
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