見出し画像

深海の記憶

 なつかしい匂いがした、
 それは気のせいで、ふり向いたわたしの言葉は
 また宙に浮く。生きていくと言うことは、言葉
 を絶えずふくらまし続けるということです。
 そう教わった途端、
 わたしの息は続かなくなった。夜が更けていく
 合図が響く。
 くぐもった銃声。地上では、乾いた秒針の音が
 して、私の夢を急かしている頃だろう。
 何が寿命だ、何が呼吸だ。
 張りつめたわたしの心を揺り動かすのはいつも
 そんなんじゃない。いのちよりもっと近くで声
 がする。私でいいよ、と
 声がする。
 もっと私の声へ潜って、生きていこうよ、
 涙を携えて。
 
 夜明けはすぐだよ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?