一人称がもたらす矛盾点?についてどう思いますか?
これはまだ小説を書きはじめて日の浅い人間が書いた創作上、読書上の悩みとして読んでください。
2024年になって2冊の純文学(芥川賞受賞作)を読みました。
『東京都同情塔』と『推し、燃ゆ』です。
どちらも一人称で書かれています。
そこで自分の中で一人称について腑に落ちないことというか、かねてから悩んでいたことが言語化できそうなのでしてみます。
読んで悩んだというより、執筆時の悩みを曖昧にしていたのが再燃した感じです。
誰が書いているのか問題
1)主人公が書いている場合
まず僕は、基本的には、一人称「私・僕」などで文章が書かれている場合、主人公が文章を書いていると考えるようにしています。(もちろん例外有りです、『吾輩は猫である』とか、猫やし)
なので一人称の小説は、主人公の人生で一番濃かった時期の自伝と読むこともできます。
主人公はその場では「めっちゃムカつくやん、ボケ!」と思っても、いつかどこかで読んでくれる人がいると仮定して、文章で書くときは「頭の血管が爆発しそうだった」などと、伝わるように書いてくれているのです。
純文学などでは「美しい文章を書こう」という意識もあるかもしれません。
ということは、主人公は本文の文章力を持っているとみなすのが自然です。語彙力、思考力に関しても同様です。
小学生や幼稚園生の主人公を一人称で書けば、地の文も幼くなるように。
ここで『東京都同情塔』と『推し、燃ゆ』を例に出します。
『東京都同情塔』の主人公は、建築家の牧名沙羅。
そんなオリジナルのマントラを唱えるのが日課であるように、自分を客観視しまくっています。
思考に思考を重ねていく小説であり、その文章は理路整然としていて、頭の良さが垣間見えますが、そんな文章力を持っていそうな主人公がそれを書いているだけなので違和感は覚えませんでした。
次に『推し、燃ゆ』。
主人公は生活の全てを推しを推すことに賭けているあかりという女子高生です。
あかりは、勉強が苦手で先生に呆れられたり、姉に宿題を教えてもらっても次の日には忘れていたり、バイトでも言われたことができなかったり、とにかく生活する上での生きづらさを抱えていて、不安定です。
物語の後半では一人暮らしをします(させられます)が、ゴミを片付けることができず、生活は崩壊しています。
そんなあかりが地の文を書いていると考えると、文章がうますぎてもっと勉強できるやろこの子、という疑問が出てきてしまうんです。この文章力があれば、あかりが生きている世界で文学賞が取れるはずです。(文学賞の存在を知っていれば)
また読解能力と執筆能力は関係がないとしても、国語が得意くらいにはなってるだろうと思ってしまうんです。
あかりは、推しのアイドル・真幸を自分なりに解釈し、紐解くためにブログを書いていますが、その文章も上手い。
推しに関することにはエネルギーの全てを捧げることができる設定なので、ブログの文章の上手さに多少は目を瞑ったとしても、思考が整理されすぎているように感じます。
ここで、その矛盾を解消するために、一人称の文章は主人公が書いていないかもしれないと仮定します。
となれば、誰が書いていると考えるのが自然でしょうか?
2)作者が書いている
主人公のほかに、主人公レベルの解像度で主人公のことを知っている人物は作者しかいません。
作者が、以下の写真のようにグラスボートに乗って、小説の世界を覗き込むようにして、主人公に寄り添いまくって書いているということです。
なんなら小説世界と現実世界の接点で主人公に会うことができ、事細かに直接話を聞き、「わたし」を主人公にして主人公が言ったことを、圧倒的な文章力で書いているということです。
これならある程度はしっくりきそうです。
しかし前述したように『推し、燃ゆ』の場合は、作中のブログの文章は主人公が書いている設定なので、そこだけはどうしても疑問点が残ります。
ちなみに僕はショートショートをよく書いていますが、叙述トリックを使うときなんかは完全に「騙してやろう!」という気持ちで書いているので、この場合は作者が書いていると思われても問題ありません。
結論
僕のように違和感を覚える人もいるとは思うけれど、思わない人もいるし、現に賞を取っているし、曖昧なままにしておくことにしました。
これから執筆を続けていく上で、なんらかの答えに辿り着くかもしれません。答えなんてないことかもしれないし、どこかの誰かがしっくりくる答えをすでに発見し、どこかで発表しているのかもしれません。
自分なりの答えに到達できるようにがんばります!
皆さんは主人公の能力を超えてしまっているかもしれない!と僕が考えてしまった『一人称の文章力問題』について、どう思いますか??
もちろん物語・ストーリーは『東京都同情塔』『推し、燃ゆ』、どちらも面白いし、圧倒されるので、めちゃくちゃおすすめです!
現代の日本を代表するような文学作品だし、象徴するような課題をテーマに設定していて、とても考えさせられます!