2024年7月前半の読了本+感想と、活動報告
こんにちは!
たくさんたくさんたくさん読んでるので、紹介&感想を見ていただけたら嬉しいですー!
ほんのひとときさんの記事「100いいね」いきました〜!
嬉しいです!ありがとうございます!
未読の方、ぜひ読んでください〜!
2024年7月前半に読んだ小説
①『ナースの卯月に視えるもの』秋谷りんこ
note主催の「創作大賞2023」で、別冊文藝春秋賞を受賞した作品。秋谷りんこさんのデビュー作。ミステリーであり、お仕事小説としても読める。笑ったし泣いた。いずれ映像化すると思う。
めちゃめちゃ骨太で、かなり面白い連作短編集だった。ストーリーも枝葉も。
優しい文体で書かれているので読みやすくもあり、看護のあれこれを優しい文体で教えてくれる。
ストーリーはもちろん、元看護師の秋谷さんが綴る看護師あるあるも最高に面白い。
・男性部屋と女性部屋は臭いが違う。男性部屋は少し汗くさく、女性部屋はどことなく生臭い。
・オペ室の看護師は髪の毛や目元メイクが派手。患者(麻酔中)と接さないから。
・夜勤明けは眠気よりも活気が勝っている。変なテンションで出かけたくなるので、ショッピングには気をつけろ 。
・夜勤明けは食欲もおかしく、朝マックが至福のひととき。
などなど、思わず「へええ〜〜〜」と唸ってしまう心理描写が次々にあらわれる。
あらすじ。
舞台は横浜市郊外にある青葉総合病院。主人公の卯月は完治の望めない人々が集う長期療養型病棟に勤めている。在宅に向けてリハビリをしている人もいるが、病棟で亡くなる人も多い。帰りたくても家族の事情で帰れない人もいる。
卯月にはある能力があり、それは患者の「思い残し」が視えること。思い残しは患者が死を意識した時に現れ、卯月にしか視えておらず、触れたり交流したりはできない。卯月は「私が思い残しを解消すれば、安らかに闘病できる」と考え、動き出す。
第1話では、患者のベッドの柵を握っている女の子を発見する。患者はマンションの庭木の選定中に、脚立から転落したらしい。卯月は「転落した時の状況が詳しく分かれば、少女についてなにかわかるかも」と同僚を連れて現地へ向かう。
感想。
連作短編なので、各話に「思い残し」が出てくるのだが、卯月と思い残しの関わり合いが変化していくのがとても面白かった。普通の日常系ミステリーなら「より難しい謎を!」と考えそうだが、そうじゃない。看護師という職業が持っている強い思いを描写することで、謎解きよりも、患者さんのためにという職業倫理や使命感が物語を動かしていくのが新しいと思った。
そして卯月が「思い残しを視える」ようになった理由も秀逸だった。この話と第六話が、より物語を骨太にしたんだと思う。卯月の強さに惹かれた。
②『鳥人王』額賀澪
【俺の人生、もっと高く跳べるはず】
本屋で装丁を見て、「お、漫才師のシルエット!芸人の話だ!」と思い購入!
タイトルも「鳥人王」だし、笑い飯さんのネタ「鳥人」になんか関係あるのかなと。
読んでみてびっくり。鳥人王は「ちょうじんおう」と読み、漫才師が棒高跳びに挑戦する話だった。
あらすじ。
主人公は漫才コンビ、パセリパーティの御子柴陸。
コンビ活動はM-1一回戦落ちと、うだつが上がらない。
30歳がきたら芸人を辞めることも視野に入れていた。
しかし運動神経抜群の御子柴は、ピンで「アスリートチャレンジ」という番組に抜擢される。
番組では陸上、水泳、クリケットなどなど、いろいろなことに挑戦させられ、その度結果を出してきた御子柴。
今度は「マスターズ陸上」という、オリンピックを目指していない人が集まる社会人の陸上大会の棒高跳びでの優勝を目指すことに。
未経験からの挑戦が始まる。
練習で訪れた大学。そこにいたのは犬飼という棒高跳びでパリオリンピックを目指している現役選手。一癖も二癖もあるいけすかない性格だが、実力はもちろん本物。
マスターズ陸上優勝と、パリオリンピック出場枠をかけての2人のドラマが描かれる。
感想。
実は視点は御子柴の他にもう1人、狐塚翠(こづかみどり)の視点から描かれている。狐塚は、元棒高跳びの選手で、今は大学で棒高跳びのポールの研究開発を行っている。ここで明かされる日本の棒高跳びの現状が面白かった。
・かつてポールが竹で作られていた時代は日本も強かった。メダルも取ったことがある。
・今はガラス繊維や炭素繊維で作られた強化プラスチック製で日本では作られていない。
・1本10万円を超える。
・記録が伸びるたび15センチなど、細かく刻んでポールを長くしていくため莫大な費用がかかる。
などなど、競技を楽しむための豆知識がたくさんで非常に面白い。
棒高跳びのほかにも、スキージャンプ、鉄棒の大車輪、フィギュア、アイスホッケーなどなど、自分の幼少期と全く接点のない競技は、どのタイミングで練習を始め、出来るようになったのか不思議だったので少しでも知れて嬉しかった。
もともと棒高跳びなど人間離れした競技を見るのが好きなのも功を奏して、のめり込むように読んだ。
御子柴と相方の関係に変化が訪れ、それからの感情の変化。また犬飼の過去と、御子柴との関係性の微妙な移り変わりも楽しめた。
さらに棒高跳びの描写がすごい。作中何回も何回も飛ぶのに、表現のバリエーションが豊富で、文章を読んでいても映像が浮かぶ。力強い書き手だなと思った。
引っかかったことが一点あるとすれば、この作品だけではないけれど「売れない芸人」という言い方は好きではない。「まだ売れていない芸人」であるだけなのだから。
③『われ思う、ゆえにわれあり』土屋賢二
お茶の水女子大の哲学者、土屋教授のエッセイ集。めちゃくちゃ面白い。1994年に単行本が発売され、そのあと文庫化された本だが、「エッセイ おすすめ」などと検索すると今でも上位に出てくる名著。
哲学的思考を駆使して難しいことを論じているのかと思いきや、屁理屈につぐ屁理屈。ユーモアエッセイとも言えるが、哲学的悪ふざけと言う方がしっくりくる。
何事も疑うことから真理の探究が始まるというスタンスだけは崩さず、真理を探究しているかと思いきや、捻くれた考えをたくさん授けてくれる。その挙句、なんか真理っぽいものに到達しているから不思議。
論理のすり替えや、相関関係・因果関係のすり替え、論の飛躍、詭弁がうますぎる。
特に好きだったのは老化を肯定しながら若さへの憧れが垣間見える『あなたも今日から老化が楽しめる』、幸不幸について論じた『汝、自らを笑え』。
特に『あなたも今日から老化が楽しめる』の後半、老人の利点について書いているところに笑った。
例えば
・美的観点から見て老人の方が優れている。歳を取れば動きは必要最小限に抑えられ、場合によっては必要最小限の動きもしなくなる。極端まで無駄を廃した動きは能の美しさを思わせる。
・精神面でも無駄がなくなり、余計なことを覚えていることがなくなる。人の名前とか、自宅の電話番号とか、自分の名前といった覚えるに値しないことを忘れるようになる。
・スリルを味わう機会が増える利点もある。若ければサーフィンだ、オートバイだと大袈裟なものが必要だが、老人になれば階段の上り下りだけで良い。
読んだら明るい気持ちになるし、なぜか今なら誰かと口喧嘩したら勝てるのではないかと思わせてくれる一冊。
④『DUEL(デュエル) - 世界に勝つために「最適解」を探し続けろ』遠藤航
まず現役日本代表のキャプテンの言葉で綴られた本を読める幸せを噛み締めながら読み進めた。2022年11月に発売されたこの本は、浦和レッズからベルギーのシントトロイデン、ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍してきた歩みを中心に、幼少期からの遠藤選手が、どんな考えのもとで様々な決断をしてきたのか記されている。
サッカーという不確実なスポーツの中で、正解じゃなくて最適解を求めることの大切さ。正解は分からないからスタートし、正解とされていることを疑い、最適解を探し、見つけることの重要性。25歳での遅い欧州移籍も、フィジカルが足りないと言われる日本人がブンデスリーガでデュエル王になることも、正解を疑わなかったら成し得なかったと語るのが印象的だった。
具体的なエピソードとしては
・相手に強く当たれるようになったのはマウスピースをつけるようになったから
・元投擲選手、元ボブスレー日本代表、116kgで50mを6秒台で走る小林さんとの出会い、一緒にフィジカルを鍛えたこと
・大事な試合で負けてしまうなどネガティブなことはあらかじめ想定して自分がどう感じるか想像することで緊張しない心理状態にしておく
・2018W杯コロンビア戦の直前の本田選手の言葉
などが特に印象に残った。
W杯でドイツ、スペインを倒し、日本代表キャプテンに就任し、2023年夏に再びドイツ、トルコを倒し、2023年の夏にはリバプールに移籍して大活躍している。テブライネを交代に追いやったマンチェスターシティ戦はもちろん、その他の試合でもボールを刈り取り続け、マクアリスターやサラーといったワールドクラスの選手にボールを供給し続ける姿を見ていると目頭が熱くなる。この本の続きにそんな未来があると知っているので、より説得力がある。
ちなみに遠藤選手は小説は読まないらしい(笑)
⑤『赤と青のガウン』彬子女王
女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下による英国留学記。彬子女王は大正天皇の曾孫で、故寛仁親王の第一女子。
めちゃくちゃ面白い。そして読みやすい。
なんといっても皇族ならではのエピソードには事欠かない。
・初めて側衛が付かずに1人で街を歩いたのはオックスフォードだったこと
・外交旅券を見たことがない田舎の空港で身元を疑われ、日本のプリンセスだと答えるしかなかったこと
・エリザベス女王とのお茶
・初めて宮内庁に猛抗議したこと
などなど、自分の立場を客観視して、読者がどんなエピソードを面白いと思い、なおかつ角が立たないか絶妙なバランスで話をお選びになったのだろうなと思った。
そのほか英語ができなくて泣いたエピソードから始まり、留学先での戸惑いや、友人との素敵な出会い、日々の生活のエピソードも面白く、感性が瑞々しい。そして後半は修士号から博士号へ切り替えた理由が語られるとともに、一気に過酷な勉強漬けの日々へ。
『論文執筆は、孤独である。』と書いているように、家で籠る以外は資料のある大英博物館と、途中でその快適さに気がついたカフェくらいしか出入りせず、体調を崩しながらも最終的に学位を取得するまでの日々が克明に記されていた。
25章からなるが、その書き分けも素晴らしかった。時系列ではないのだけれど、テーマごとに博士号取得に向けて収斂していくような構成。上手いなあ。
論文で行き詰まっていた時に先生から送られたThink small(小さいことから考える)Always think about a question(質問を考える)が心に残った。
また彬子女王から語られる父・寛仁親王が喋り方も生き様も豪快で最高だった。おすすめの一冊。
⑥『蜜柑』芥川龍之介
1919年に発表された作品。あまりにも美しい物語。退廃的な描写の中に唐突に出てくる橙は鮮やかすぎた。芥川龍之介の中でもかなり好きな話。実際の体験をもとに書かれているらしい。
あらすじ。
主人公は私。舞台は横須賀駅から乗った汽車の中。芥川自身も横須賀の海軍機関学校で英語の教官として勤務しており、下宿がある鎌倉から通勤する際や帰京する際に横須賀線を利用していたそうだ。
退屈な日常、退廃的な風景、面白くない新聞。悲観的な主人公が乗る汽車に乗ってきたのは、1人の田舎の少女。しばらくすると少女はおもむろに電車の窓を開けようとするが、ちょうどトンネルに差し掛かって、汚い空気が入ってきてしまう。何をするんだ!
そう思った主人公だが、すぐに少女が窓を開けた理由がわかり、あまりにも鮮やかな光景に心打たれる。
完璧だと思う。短編の理想型かもしれない。
⑦『檸檬』梶井基次郎
1925年に発表された梶井基次郎の短編小説。若くして亡くなった梶井の代表的作品だ。タイトルはあまりにも有名だと思う。
本当に表現が豊かで、文才に溢れている。長生きしたら夏目漱石や芥川龍之介と肩を並べるほどの文豪になっていたかもしれない。
今回、久しぶりに読んだ。というか最後のシーン以外忘れていた。めちゃくちゃ面白かった。まさに純文学。
陰鬱な毎日をぶち壊してくれる果実——そういう意味では芥川龍之介の『蜜柑』と似ているけれど、『檸檬』の方がより個人の内面的な部分に焦点を当てて書かれているように感じた。どちらも面白くて、美しい。
やっぱり最後のシーンが好きだ。ここ爆発せんかな、とか同じようなこと考えたことが何度もある。想像は自由だということを教えてもらったのもこの小説。心の中、頭の中ではどんなことを考えても良い。それが犯罪でも、モラルのないことでも、意味のないことでも自由だ。
あと再読して、数年前にTwitterでバズった「Get Wild退勤」を思い出した。
まさに現代の檸檬。去り際の流儀。
あらすじ。
『えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた』という一文から始まる。好きな音楽や詩にも癒されず、よく通っていた文具書店の丸善も、借金取りに追われる主人公には重苦しい場所だ。憂鬱な日々を過ごしていた主人公は、ある朝、京都の裏通りを当てもなくさまよい歩いていた。
ふと以前から気になっていて果物屋の前で足を止めると、レモンが並べてあった。それを握った瞬間、主人公の心を圧えつけていた不吉な塊がいくらか弛んだのだった。その足で丸善へ行き……。
⑧『赤い部屋』江戸川乱歩
1925年に発表された江戸川乱歩の短編探偵小説。谷崎潤一郎の『途上』(1920年)に影響を受けて執筆した初期の作品だそうだ。
刺激を求める「赤い部屋」の会員七人。本当に集まった部屋は赤で統一されており、夢幻的な雰囲気が漂うっている。怖い話サークルのようなものかな。
円卓の周りを取り囲み、新入会員T氏の話に聞き入る。T氏はあまりに残酷な自らの殺人遊戯を意気揚々と告白する。それは絶対に犯人がバレない、偶然に頼った殺人方法だった(乱歩はこれをプロバビリティーの犯罪と読んでいるらしい)。100年以上前に考えられたトリックなのに、関心とともに身震いする。
そしてまさかのラスト。「人間椅子」を彷彿とさせるが、この手法はめちゃくちゃ好きだし、信頼できる作家だなと思う。
今後の予定
① 7/25 BSよしもと 『第一芸人文芸部 俺の推し本。』公開収録
こちら第3回の公開収録です!
こちら3本撮りで、各回ごとにゲストが登場し、4人で推し本について話すイベントです!『第一芸人文芸部 創刊準備二号』もチケットについてきます。ぜひお越しください!!
場所:下北沢B&B
時間:2024/07/25(木)19:00〜
メンバー:ピストジャム、ファビアン、しずる 村上
ゲスト:キンボシ西田、レ・ヴァン九条ジョー、トニーフランク
第一芸人文芸部のレギュラー
① 毎週水曜22時〜 stand.fm生配信
今週読んだ本の紹介、そのほか文学ニュースについて語ったり、活動報告も行なっています!
お便りコーナーもあるので、質問等お待ちしております!
ぜひ聴いてください。第一芸人文芸部の活動のベースとなっております!
② 毎週日曜16時30分〜BSよしもと『俺の推し本』
7月7日から、毎週レギュラー放送が始まりました!
アーカイブはBSよしもとのサイトから登録いただけると見ることができます!また放送から1週間後に、BSよしもとのYouTubeチャンネルでも公開されます!
YouTubeは記事の下の方にまとめているので、ぜひ!
放送予定
7月21日 ♯3 村上健志(フルーツポンチ)、赤嶺総理
7月28日 ♯4 バイク川崎バイク(BKB)、山名(アキナ)
8月 4日 ♯5 バイク川崎バイク(BKB)、糸原(つぼみ大革命)
8月11日 ♯6 バイク川崎バイク(BKB)、石井ブレンド
8月18日 ♯7 村上(しずる)、西田(キンボシ)
8月18日 ♯8 村上(しずる)、九条ジョー(レ・ヴァン)
9月 1日 ♯9 村上(しずる)、トニーフランク
文芸誌『第一芸人文芸部』の発売店まとめ
『第一芸人文芸部 創刊準備号/創刊準備二号』ともに一般流通していませんが、以下の本屋さんで取り扱ってくれております。
自信作です! ぜひゲットしてください!
※在庫は各店舗にお問い合わせください。
拙著について
① 『きょうも芸の夢をみる』
2023年3月に発売した“芸人”をテーマにして書いたショートショート&短編小説集『きょうも芸の夢をみる』について、こちらに発刊への想いを綴っています。
そして以下のリンクから芸人の解散をテーマにして書いたショートショート『エルパソ』を無料公開しているので、ぜひ読んでみてください!
② 小鳥書房『本屋夜話』(「小鳥書房文学賞」詞華集: とりをめぐる12話の物語)
こちら小鳥書房さん主催の小鳥書房文学賞を受賞させていただき、その後発売されたアンソロジーです。
“とり”をテーマにした12作。僕の『私・芸能人・鳥』という作品も掲載していただいています!
小鳥書房さんのページはこちら↓↓
アーカイブ
①(2024年7月〜)『第一芸人文芸部 俺の推し本』
#1
② 7/15 13:00〜16:00出演 BSよしもと 『ジモトノチカラ』アーカイブ
こちら日本各地の「ジモト」の良いところ、おすすめのモノやヒト、文化・風習などを紹介する情報番組です。フルーツポンチ村上さん、ピストジャムさんと一緒に出演しました。出番は後半!
③(2024年3月) 特番『第一芸人文芸部 俺の推し本』
④ (2023年10月〜2024年3月)Amazon Audible 『本ノじかん』
2023年10月〜2024年3月までの半年間、パーソナリティを担当させていただきました!豪華なゲストと本や創作について語っているのでぜひ!
また番組内の『クチヅタエ』という企画で、バイク川崎バイク(BKB)、しずる・村上、3時のヒロイン・福田、ニッポンの社長・辻、レインボー・ジャンボたかおのリレー小説の連載が完成し、第23回では全員集まって反省会をしています!各回の朗読は、声優の白井悠介さんです!